...昨日からの続き...
テオドーロおじさんは立ち上がると、トウモロコシの束を抱えて来て、座りなおしました。 ランプの光で、テオドーロおじさんの目に、涙が溜まっているのが分かりました。
”ええっ、それでノエミちゃんは、バスに轢かれて死んじゃったの?”
テオドーロおじさんは、うんうんうなづきながら、ランプに来た大きな蛾を見ていましたが、また話し始めました。
”おばさんはな、バスが来るのを見て、びっくりして叫んだんじゃ。
ノエミ、危ない、そこで待っとれ。 バスが来た。 危ない、そこで待っとれ。
ノエミちゃんもびっくりしてバスを見て、いったん立ち止まりかけた。 けれどもまた走り出すと、道へ、バスのまん前に飛び出したんじゃ。”
テオドーロおじさんは、ふうと大きく息をつきます。 しばらく目を閉じていましたが、また話し始めます。
”どんっ...、バスはノエミちゃんを撥ね飛ばした。 おばさんの目の前じゃった。
ノエミー...、おばさんはノエミちゃんを抱き起こした。 耳と鼻から血が流れ出ていて、頭が割れてしまっているようじゃった。
ノエミー...、おばさんが泣きながらノエミちゃんを呼ぶ。 するとノエミちゃんはな、おばさんの腕の中で目を開けると、かすれたほとんど聞き取れない声で言ったんじゃ。
...おばさん...、ごめんなさい...、轢かれちゃった...、おばさんの言う事を聞かんで、轢かれちゃった...、ごめんなさい...、おこらないでね...、ごめんなさい...
おばさんはノエミちゃんに言う。 だいじょうぶ、おこったりしないよ、だいじょうぶだからね...
それでもノエミちゃんは、おばさん、おこらないでね、おこらないでね、と繰り返して言うんじゃ。
そうしたらな、おばさんはノエミちゃんを横たえるとな、耳に口をつけて、ほらノエミ、見てごらん、と言った。
そしてな、ほら見てごらん、と叫びながら立ち上がるとな、そこに止っていたバスに、ノエミちゃんを撥ね飛ばしたバスに、頭からぶつかって行ったんじゃ。 まるで雄ヤギのような、凄い勢いで、うわあぁ~...、と唸りながら、真っ直ぐに頭からぶつかって行ったんじゃ。”
”ゴツンと大きな音がして、おばさんは撥ね返されて倒れた。 頭から血が噴き出しておった。
おばさんは、ノエミちゃんのところに這って行くと、ノエミちゃんを抱きしめて言った。
ノエミ、見たかい...、ほら、おばさんも轢かれちゃったよ...、ノエミといっしょや...、おばさんも轢かれちゃったよ...、心配せんでいいからね...。
するとどうじゃ、ノエミちゃんは、おばさんの胸に顔をうずめて、安心して、にっこり笑ったんじゃ。”
”すぐに救急車が来たんじゃが、ノエミちゃんは、その時にはもう、息をしとらんかった。 だけどもノエミちゃんは、笑っておった。 楽しい夢を見ながら眠っているとしか思えん、それはきれいな顔じゃった。 それからおばさんも、ノエミちゃんを抱いたまま、もう息をしとらんかったが、やっぱり楽しそうに笑っておった。”
テオドーロおじさんの目から、涙がこぼれ出て、髭だらけの頬を伝って落ちました。 チャヨおばさんも、フラビオ兄さんも、目が真っ赤です。 セレステの頬も、いつの間にか涙で濡れています。
かわいそうなノエミちゃん...。 かわいそうなおばさん...。
いちど立ち止まりかけたノエミちゃんは、どうしてまた走り出したのでしょうか。 少しでも早く、おばさんの所へ行きたかったのでしょうか。
自分でバスにぶつかって行ったおばさん。 どんなに悲しかったことでしょう。 どんなにノエミちゃんが愛しかったことでしょう。
”でもな、そうしてあの2人の魂はな、しっかりと抱き合ったまま、いっしょに天国に行ったんじゃろうな。 いつまでも、どこででも、いっしょにおるんじゃろうな。”
泣き顔のみんなを見て、テオドーロおじさんが言います。
そうでしょう、きっとそうに違いない...、セレステは思います。 また涙が溢れ出てきます。
”それでな、あの二つの十字架はな、バスの運転手と校長先生が作って、あそこに置いたんじゃ。 まだあのワムチが若木だった、ずいぶん昔の事じゃ。 その運転手さんも校長先生も、もうよその町に行ってしもうた。 ノエミちゃん達の事を憶えておるのも、わしの他にいくらもおらんようになってしもうたのう。”
”まあな、セレステ、十字架には乗ったりせんほうがええぞ。 みんな気の毒な人たちじゃからな。”
すっかり涙が乾いたテオドーロおじさんが、じろりとセレステを睨んで言います。
セレステは、唇を噛みながら、うんうんうなづきます。
あの小鳥達や子供達が集うワムチの木陰には、ノエミちゃん達の魂が住んでいて、セレステたちを見ているような気がしますから。
...お終い...
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