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2013年6月26日 (水)

回想録ーXVIIII 砂漠の話

Rosamorada_convert_20130625114009 僕が10年間住んだ、サン・ルイス・リオ・コロラド市は、人口約15万人、ソノラ州の北西端に位置する。 気候は、典型的な砂漠気候だ。 5月から10月の最高気温は常に40度以上、50度を超える日もある。 雨は、年に2~3回、ぱらぱら降れば良いほうだ。

北はアメリカ国境に接し、西はグランドキャニオンを源とする大河コロラド川のデルタ地帯。 南へ荒野を約100km走れば、カリフォルニア湾最奥部の海岸に出る。 東は、人跡稀な砂漠が数百kmも続いている。

日本の方は、まず訪れることは無いと思うから、少しだけこの砂漠の話をしますね。

砂と岩と、僅かな潅木とサボテンだけの、誰も住まない砂漠。 一見、死の世界だけど、いるんだな、生き物が。 コヨーテやウサギ、鹿、カンガルーラットは頻繁に見た。 ピューマ、ヤマネコ、オオツノヒツジも、しっかりいるそうだ。 鳥では、カラス、コンドル、ロードランナー、カンムリウズラ、サボテンに穴をあけて巣を作るキツツキなんかがいる。 ガラガラヘビ、陸亀、ドクトカゲやハリトカゲもいる。

砂漠の星空はきれいだ。 だけどね、車から降りて、地面を懐中電灯で照らしたとたん、飛び上がることになる。 サソリがうじゃうじゃ這ってるんだ。 砂漠のサソリは小さい飴色の奴だが、猛毒だ。

砂漠に入って行くのは、命懸けだ。 ガラガラヘビに噛まれたら、一巻の終わり。 サソリに刺されても、人によっては、その場でばったり倒れて死んでしまうことがある。 砂漠の真ん中でサソリに刺され、痛みとショックで動けなくなったら、50度の昼間なら、2時間で干物になってしまう。 ドクトカゲやタランチュラに噛まれて、痛みで馬に乗れなくなったり、馬に落とされたりして、砂漠に取り残されて死んだ奴も沢山いる。 そうでなくても、砂漠で馬を失ったら、命が無いんだ、昼間なら干からびて死ぬし、夜になったら即コヨーテの餌食なんだ。

砂漠にも、春がある。 3月には、パロベルデ(PALO VERDE、Parkinsonia aculeata)と呼ばれる潅木に、黄色い花が咲く。 殺風景な砂漠が、点々と黄色に彩られる。 それから、夏至の頃には、サボテンに花が咲く。 黄色や朱色、ピンク、白。 砂に汚れて、枯れたような葉から、いきなり大きな花が開く。 あの西部劇に出てくる、巨大な柱サボテンも、頂に白い花冠をかぶっている。 年中乾ききった砂漠で、ちゃんと季節を捉えてるのが不思議に思える。

こんな砂漠なんだけど、たまに大雨が降ることがある。 何年か、あるいは何十年かに一回だ。 確か1999年だったと思うけど、2月に3回ばかり続けて、結構な雨が降ったことがあった。

谷間には、水溜りが出来た。 そうするとね、ヒキガエルがうじゃうじゃ出てきた。 どこから来たんだろう、砂の中に何年も潜んでたんだろうか? 水溜りは紐みたいな卵でいっぱいで、あっという間にオタマジャクシになって、10日ほどで水溜りが涸れてしまう頃には、もう親指の爪ほどのカエルの形になっていた。 そして、どこかに消えてしまった。 砂に潜って、何年か先の雨を待ってるんだろうか?

大雨が降って、ほんの3日ほどで、砂漠は緑になった。 地面に草が芽生える、潅木は芽を吹く。 そして、2週間もすると、高山のお花畑みたいになった。 砂地は、みずみずしい花で覆い尽くされ、岩の間にも花弁が揺れる。 砂漠のユリ(Hesperocallisが群れ咲く。 そうすると、おびただしい数の花蜂が飛び回りだした。 どこから来たんだろう? 岩の間の巣で、サナギの状態で、何年も雨を待っていたのか? 沢山の毛虫や芋虫も現れた。 薄暮時には、小さな蛾が、花吹雪のように舞った。 スズメ蛾が、幽霊のように、花から花へと渡る。 そして...、ほんの2ヶ月足らずで草花は枯れ果て、生き物たちは姿を消し、死の世界に戻った。

...つわものどもが夢の後...。 灼熱の砂の中で、何年も先の次の饗宴を夢見て、眠っているのだろうか?

この町に住んでいたときには、夏の暑さを呪い、明けても暮れても一片の雲も無い空を呪い、常に脱出を望んでいたけど、今思えば、砂漠の自然は素晴らしいものだった。 いつの日にかまた、訪れてみたいと思う。 何もかもが死に絶えた、真夏の日にね。

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コメント

砂漠の雨と、その後の花園や水生動物たち・・・聞いたり読んだりしたことはありますが、私にとってはまるで、伝説か蜃気楼のようです。
それに、私にとって、メキシコの砂漠は未知の世界。
いつか行ってみたいと、ずっと前から思ってはいるのですが。

投稿: 胡蝶の夢 | 2013年6月27日 (木) 10時02分

>胡蝶さん
死の世界が、あっという間に生命の氾濫に変わる、砂漠の環境に適応してる生き物たちに、本当に驚きました。 僕にとっても、もう夢のなかの出来事のようです。

投稿: OTTO | 2013年6月27日 (木) 13時24分

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