童話

2016年10月13日 (木)

カヨカマ パカリ (童話の下書き)

久しぶりに、童話、行きます。 エクアドルのアンデス山脈の、風の中の小さな村でのお話しです。 ちょっと長いですが、いっぺんに載せます。 最後まで読んでいただければ、嬉しく存じます。 それでは、どうかよろしく。
 
カヨカマ パカリ
 
Img_5281pacariエクアドルの首都、キトから西に一山超えたところ、アンデス山脈の中に、ジョアという村があります。 赤道の真下ですが、標高が3000mもあるところですから、一年中涼しくて、それからいつも風が吹いている村です。
 
わたくしは、この小さな村の日曜日ごとに立つ朝市を見るために、夜明け前に宿を出て、バスを乗り継いで来ました。 外国人などめったにこない小さな村ですから、何か珍しい物があるのではないかと思ったのです。
 
ところが市といっても、ほんの1500人ほどの村の人が普段の買い物をするだけのものですから、通り一つにまばらに露店があるだけです。 半時間もあれば、見終わってしまうのです。 キトへ戻るバスは、お昼過ぎまでありません。 わたくしは時間を持て余してしまいました。
 
...景色のいいところでゆっくりしよう...。
 
わたくしは、村の向こうに見える丘を目指して歩き始めました。
 
Img_5332pacari黒い土の坂道は、やがて車がやっと一台通れる幅になり、まるで登山道のような、つづら折になりました。 あたりの山肌は段々畑に耕されていて、白壁に黒っぽい瓦葺きの小さな家がぽつんと建っています。
 
畑には見慣れない作物が茂っていて、紫色の花で染まっています。 何だろうと眺めるうちに、それが馬鈴薯だと思い当たりました。
 
...ああ、懐かしい。 子供の頃、裏庭の畑に咲いてたっけ...。
 
見渡せば青い山並み、その向こうに小さく、万年雪の山々が見えます。 風が斜面を駆け上り、馬鈴薯畑に波を立てます。
 
その時わたくしは、高山の薄い空気と坂道とで、すっかり息が切れていました。
 
...きれいなところだな、もうここでいいや...。
 
わたくしは、ふらふらと馬鈴薯畑に入っていきました。 そうすると思いがけなく、畝の窪みに、小さな女の子がいたのです。
 
わたくしは驚いて、その場に立ちすくんでしまいました。
 
急な登り斜面だったのと、丈高く茂った馬鈴薯の枝葉に隠れて、目の前に来るまで気がつかなかったのです。
 
女の子は土の上に座って、膝には裸のお人形が乗っています。 確かにわたくしに気が付いているのですが、全く気にする風でなく、一心にしゃもじで土をお椀に盛っています。
 
わたくしは、少し安心しました。 そして、にわかに興味がわいてきました。 わたくしにも同じぐらいの歳の末娘がいるので、どうしても気になってしまうのです。   
 
女の子は、6歳ぐらいでしょうか。 ピンクのポンチョのフードから覗く黒い瞳。 目は細く、頬は赤く、この国の山岳民族の顔だちをしています。
 
Img_5331pacari 雲間から日が差し、逆光の風の中、馬鈴薯の花が紫の星のように輝きます。 女の子の黒髪に虹がかかり、花房は髪飾りのようです。
 
”パカリ~...。”
 
そのとき、女の声が聞こえました。 女の子はパッと顔をあげると、お人形を胸に抱え、小さな家のほうに駆けて行きます。
 
”パカリ~...。 パカリ~...。”
 
山岳民族の言葉の歌うような呼び声は、何度も繰り返し響きました。 お母さんでしょうか。
 
わたくしは、すっかり気まずい思いになりました。 見咎められたと思ったのです。 すぐに馬鈴薯畑を後にして、村へ戻ることにしました。
 
 
坂道を下り、村の家々が見え始めたころ、後ろからエンジン音が響き、つづら折りをおんぼろのピックアップトラックが、ぱたぱた煙を吐きながら下りて来ます。
 
わたくしは脇によけて立ち止まる。 運転席から中年のご夫婦が軽く手を上げ、ガタガタと通りすぎる。
 
”カヨカマ~。”
 
かわいい声が響きました。 なんと、あの馬鈴薯畑の女の子が、荷台から手を振っているではありませんか。
 
わたくしは、いったいどうしたんでしょうかね、もう飛び上がるぐらいに嬉しくなってしまいました。
 
カヨカマ~...。 いったいなんて言ってるんだろう? まるで小鳥が囀るような...。
 
わたくしは、馬鈴薯畑でのことがありましたから、少し遠慮するような気持でした。 それで、黙って小さく手をひらひらと振りました。 そうすると女の子は、確かに少し笑ったのです。
 
Img_5321pacari さて、わたくしはジョア村に戻ったのですが、まだお昼まで小一時間あります。 村を散歩するうちに、小さな教会に行き当たりました。 横の石畳に古物の露店があり、先程のご夫婦がいます。 そうして、前の広場で、ピンクのポンチョの女の子が遊んでいます。 
 
居た居た。 あはは、ほら居た...。
 
じつを言うと、なんとなくですが、村のどこかで、またあの女の子に会えるような気がしていたのです。
 
”やあ、こんにちわ。 さきほどは、どうも失礼しました。”
 
わたくしはご夫婦に丁寧にあいさつをして、それから手織りのポンチョや帽子などを手に取りました。
 
ご夫婦はケチュア族の方でした。 お二人の間ではケチュア語を話しますが、わたくしとはスペイン語です。 山の暮らしをお聞きし、わたくしもおぼつかないスペイン語で、はじめてのエクアドルの感想や、わたくしが住むメキシコの海辺の村のことを話しました。 そうする間もわたくしは、女の子が気になって仕方がありませんでした。
 
女の子は少し離れたところで、地面に絵を描いてピョンピョン跳ねたり、石ころを転がして遊んでいます。 わたくしをちらちら見たりもします。 ご夫婦がケチュアの言葉で声をかけると、女の子もケチュア語で、小鳥のように短く答える。 さきほど馬鈴薯畑で聞いた、パカリという言葉が何度も出てきます。 わたくしは、思い切って聞いてみました。
 
”娘さんは、パカリさんとおっしゃるのですか?”
 
”ええ、そうです。 パカリは、私どもの一人娘です。 パカリ...、私どもの言葉で、夜が明けるっていう意味です。”
 
”そうですか。 夜が明ける、素敵なお名前ですね。 こんにちわ、パカリさん。”
 
わたくしが言うと、パカリはうつむいて、少しはにかんだようです。
 
そのとき、広場の前にマイクロバスが入ってきました。 クラクションが、けたたましく鳴り響きます。
 
”ああ、バスが来た。 わたくしは行かないといけません。 どうもありがとう。 ごめんください。 さよなら。”
 
”ええ、さよなら。 気を付けて、行ってらっしゃい。”
 
ご夫婦は、わたくしが買い求めたポンチョを大慌てで袋に入れます。 わたくしは包みを胸に抱えると、バスへ走りました。
 
ご夫婦の声が追いかけてきます。
 
”カヨカマ~。 私たちは、さよならの時、そう言うんです。 どうか、お達者で。 カヨカマ~。”
 
カヨカマ...? 聞き覚えのある言葉...、なんだったっけ...?
 
わたくしは大慌てで窓際に座ると、窓から広場を見下ろしました。 あのご夫婦が、手を振っています。
 
パカリは? パカリはどこだろう? パカリがいない!
 
パカリの姿は、どこに見えないのです。
 
...どうしたんだろうか...?
 
扉が閉まり、バスはぶるぶる震えると、動き出します。
 
Img_5323pacari そのとき、広場の真ん中の看板の後ろから、パカリがぴょんと姿を現しました。 恥ずかしそうに笑って、わたくしに小さく手を振る...。
 
”カヨカマ~...。”
 
ああ、そうだ。 カヨカマ...。 小鳥が囀るような声...。
 
”カヨカマ~、パカリ~。”
 
わたくしはバスの窓から身を乗り出して、叫びました。
 
”カヨカマ~...。”
 
”カヨカマ~、パカリ~...。”
 
パカリのピンクのポンチョが小さくなり、バスは辻を曲がります。 いつも風の中の、アンデスの小さな村が遠ざかっていきます。
 
Img_5253pacari わたくしは席に腰を落とすと、青い山肌に雲の影が流れていくのを眺めながら、思いました。
 
...パカリがわたくしに言った言葉は、さよならの言葉の、カヨカマだけだった...。
 
”カヨカマ~...。”
 
わたくしの胸のなかで、パカリの声が、こだまのように響いています。
 
 
”あの女の子は、あなたの娘さんですか? それともお孫さんでしょうか?”
 
隣の席の、アンデスの人の服装の青年が、訊ねます。
 
わたくしは、急な問いかけに驚き、答えを探します。
 
”...いいえ、違います。 わたくしは...、わたくしは、あの子の誰でもないんです。”
 
そう答えたとき、唐突に悲しみが、風のようにわたくしの胸を満たしました。 どうしたことか、目頭が熱くなり、涙さえ湧いてきたのです。
 
わたくしは、声を絞り出しました。
 
”...でも、大切な人なんです...。”
 
”そうのようですね。”
 
青年はうなづいて、それからじっとわたくしを見て、少し笑って言いました。
 
”あなたにも、きっとあの子にも。”
 
 
noteカヨカマ パカリ 風の中
 
馬鈴薯畑の 王女様
 
星空巡り 夜が明ける
 
パカリは今日も 風の中note
 
 
...おしまい...。
 

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2013年6月13日 (木)

童話 グルニャンの贈り物

先週から、立て続けに、愛ネコを亡くしました。 一緒にコリマへ行こうぜ、フニャ~ン...、なんて言い合ってたのに。 僕たち家族の不運を、一手に背負って死んでくれたような気がしてます。

回想録は、休ませていただいて、今回は哀悼の気持ちを込めて書いた童話です。

それでは、グルニャンの贈り物。

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グルニャンの贈り物


イルダの可愛い茶トラネコ、グルニャンが死んでしまいました。

朝、学校に行くときには、るるる、と喉を鳴らして見送ってくれたのに。
 
 
お昼に、おうちに戻ると、お母さんに呼ばれました。
 
イルダ、とても悲しい知らせなの。 グルニャンが死んじゃったのよ。
 
 
お母さんは、イルダの肩を抱くと、裏庭に連れて行きました。
 
グルニャンは、いつもお昼寝をしていた、物干し台のタオルの上に、体をまっすぐに伸ばして、横たわっていました。
 
 
イルダは、グルニャンを抱き上げました。
 
グルニャンの体は冷たくて、うっすら開けた目は、ガラス玉のようでした。
 
グルニャン...。
 
涙が頬を伝って、ぽたぽたと、グルニャンの顔に落ちました。
 
 
お母さんがさっき、洗濯物を持って来たら、グルニャンがぶるぶる震えて、苦しんでいたの。 すぐに、動かなくなってしまった。 グルニャン、すっと木戸のほうを見ていたわ。 イルダが来るのを待ってたんだと思うの。
 
お母さんは、イルダの腕から、そっとグルニャンを抱き取ると、ライムの木の下に掘ってあった穴に、横たえました。
 
 
さよなら、グルニャン...。
 
グルニャンの体が、土に隠れた時、グルニャンとは永久にお別れなのが、はっきりと分かりました。
 
グルニャン...、グルニャン...。
 
イルダは、お母さんに抱きついて、わあわあ泣きました。
 
 
イルダは、その日の夕方、一人で浜に行きました。
 
誰にも会いたくありませんでしたから。
 
 
波が寄せる砂浜を、グルニャンのことを考えながら歩きました。
 
潮風が、ぶうぶう耳を鳴らして、吹いていきます。
 
 
イルダは、グルニャンが喉を鳴らすのを聞いたような気がして、顔を上げました。
 
濡れた砂の上に、貝殻があります。
 
今までに見たことのない、大きな巻貝です。
 
 
貝殻は、夕日に透けて、きらきら輝いています。 茶色の縞模様が、グルニャンそっくりです。
 
 
グルニャン...?
 
 
0aaaaaaaacanon510_convert_201306130 また、潮風が、ぶうぶう吹いていきます。
 
お空には、ちぎれ雲が、夕日に染まって駆けています。
 
お空のどこかから、グルニャンが喉を鳴らして、イルダを見ているような気がします。
 
 
この貝殻は、グルニャンからの贈り物なのだわ。
 
 
イルダは貝殻を手にとって、そっと唇を押し当てました。
 
それは、イルダが大好きだった、グルニャンの桃色のお鼻のように、ひんやりと冷たく、少ししょっぱかったのであります。
 
 
...お終い...

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2013年5月15日 (水)

童話 フベという少年の話

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久しぶりに童話、行きます。

フベという少年の話

フベは、11歳だった。

学校が引けると、フベはいつも、粗末な釣り竿を持って、一人で浜に行った。 そして、父母や弟妹たちが夕飯に食べる魚を釣った。

フベたちは、青い入り江の入り口の小さな村に住んでいたのだが、父母は農園で働いていて、漁師の親戚や知り合いもいなかったから、フベたち家族が魚を食べるには、自分で釣らなければならなかった。

優しいフベは、小魚や美味しくない魚が掛かると、丁寧に針を外して、海に返してやった。 針を飲み込んで助からないのがいれば、捨てずに持って帰る。 その日に食べる分が釣れれば、それ以上は釣らない。 お父さんに、そうするように言われていたからだ。

そしてお母さんは、どんなに小さな魚でも、お腹を割き、ウロコを取って、料理してくれる。 みんなで残さずに骨までしゃぶって食べ、ハラワタや骨は庭に埋める。 それで、フベの庭のマンゴーやオレンジの樹には、毎年甘い実が枝が折れるほど成った。

ある日、いつものようにフベが釣りをしていると、町の中学生たちがやってきた。 岩の上に陣取ると、賑やかに釣りを始めた。 立派な竿にリールで、フベの竿では届かない深みに餌を投げる。 立て続けに、大きな魚が釣れた。 5匹、6匹、7匹...。 中学生たちは、魚を岩に叩きつけたり、投げたりして遊んでいたが、最後には魚をみんな海に投げ捨てて帰ってしまった。

フベは、おかずを釣り終えて、帰り支度をしていたところだった。 波間に白い腹を見せて浮かぶ魚、横になって苦しげにエラを動かす魚。 潮流に乗って、遠ざかっていく。

フベは網袋を掴むと、砂を蹴って海に飛び込んだ。 抜き手を切って、まっしぐらに沖へと泳ぎ、魚を集める。 最後の魚を袋に納めると、浜を目指した。 だけども、その日は大潮だった。 潮流は逆巻いて沖へ流れていた。 フベは魚が詰まった袋を引いて、ばちゃばちゃしぶきを立てていたが、やがて波間に消えてしまった。

誰もいない入り江を、大きな夕日が真っ赤に染めていた。

翌日、フベの家族や村人たちは浜を探し、漁師たちは網を引いたりしたが、フベの体は見つからなかった。

それから4日後の夜だった。 浜に涼みに来た人が、海の中に、光る大きなものを見た。 次の日の夜、その話を聞いた村人たちが、浜に集まった。 確かに波の向こうで、まるで夜光虫のような黄緑色の、大きな光の塊が、エイが泳ぐように揺らぎながら、ゆっくりと動いてた。

そしてその翌朝、村の桟橋の先に、フベの死体が浮いているのが見つかった。 あの光るものは、フベだったのだと、村人たちは思った。

知らせを聞いた父母や弟妹たちが駆けつけ、漁師たちと小船に乗って、死体を引き上げに漕ぎ出した。 そしてそこで皆は、無残に水脹れしたフベの体を、今までだれも見たことがない、虹のように七色に輝く、大きなエビがびっしりと覆って、長い髭をゆらしているのを見た。 それから、今までだれも見たことのない、透き通るような緑色の大きな魚が、フベの周りにも下にも、絨毯のようにひしめいているのを見た。

フベの体は、家族たちが村の後ろの岩山の頂に葬った。 海から吹き上げる風がいつも吹いていて、棘のある潅木しか生えない寂しい処だったが、その年から毎年、季節の草花がたくさん咲くようになり、大きな虹が度々かかったということだ。

...おしまい...

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2012年12月30日 (日)

童話シリーズ 第6話 ラモンおじさんの海賊話ーV

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...昨日からの続き...

「さてと、その翌週、霧の深い夜明け方に、わしはロバを連れてそこにもどって、金貨をすっかり掘り出した。 豆を入れる麻袋に半分以上もあって、ひとりではロバに積めなかったよ。 それでわしは、4つに分けてロバの背につけて、その上に刈った草を積み上げて、家に戻った。 それから大きな穴を掘って、埋めなおしたんじゃ、誰にも見られんようにしてな。」

ラモンおじさんは、空になったテキーラのビンを逆さまにして、手のひらに落ちたしずくをペロリとなめました。

「まあ、そう言うわけでな、わしは金貨を持っとるんじゃ。 ご先祖様とテキーラ様の贈り物というわけじゃな。 もう、なんぼも残っとらんがな。」

「ねえ、いったいどこに埋めたの?」 セレステ達は声をそろえてさけびます。

「ワハハハ…、それは言えんのじゃ。 これもオルランドおじいさんとの約束じゃ。」

ラモンおじさんは、ろれつが回らなくなった舌で言います。

「あれからまた、夢にオルランドおじいさんが出てきてな。 隠し場所はだれにも言うなと言うたんじゃ。 もし言うたら、このわしも、言うた相手も、金貨も、みんなあの世にさらっていってしまうからそう思え、と言うたんじゃ。」

ラモンおじさんは、ごくりとつばを飲みこむと、怖い顔で、それでも聞きたいか、といいました。

子供達は顔を見合せます。

「うん、聞きたい。」 フラビオ兄さんが、叫びます。

「うん、聞きたい、聞きたい…」 みんな、声をそろえて叫びます。

セレステは、最後のお話しはきっとウソだと思いましたが、少し怖かったので黙っていました。 それに、話し手のラモンおじさんは、いつのまにかテーブルに伏せて、ぐうぐういびきをかいています。

テオドーロおじさんが、ラモンおじさんを抱えてベッドに連れて行くと、毛布をかけます。

「ラモンおじさん、またおじいさんの夢を見てるのかな?」

「そうかもな。 テキーラを飲んで寝るとな。」

「そしたら毎晩だね。」 ラモンおじさんの奥さんが言います。

「まあええじゃあないか。 お正月じゃしな。 海賊様のお告げがあるかもしれんぞ。 また金貨で大儲けじゃ、うははは…」

テオドーロおじさんは、大きなあくびをしながら言います。 セレステたちも、まぶたが落ちかかっています。 みんな、てんでに床に寝転がって、毛布に包まります。

ランプを消すと、真っ暗闇。 風がひゅうひゅうと鳴っています。

海賊達も船の上で、こうして寝たのかなぁ…。 おじさんたちの鼾を聞きながら、セレステは思います。

海賊になったセレステは、金貨がぎっしり入った宝物の箱を担いで、ステップを踏みながら、歌っています。 ホウホウ...、どんどん...、ホウホウ...、どんどん...

...いつの間にか、夢の中...。

...お終い...

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2012年12月29日 (土)

童話シリーズ 第6話 ラモンおじさんの海賊話ーIV

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...昨日からの続き...

「それでわしは、ぐうぐう気持ちよう寝とったんじゃが、顔になにか冷たいものが触れたような感じがして、目がさめた。 風がごうごう吹いておる。 テントはとっくに吹き飛ばされて、どどこにも無い。 大粒の雨が、ばらばら降りはじめておる。 紫色に稲光がひらめくと、どかーんと雷が鳴る。 大嵐が来とるんじゃ。 わしは飛び起きた。 大きな倒れた木の幹が、稲妻の光りで見えた。 わしは手さぐりでそっちへ這って行った。 ちょうどわしがすっぽり入るぐらいの隙間が、幹の下にある。 やれやれ、助かった。 もう土砂降りじゃったが、これでひどくぬれないですむ。 それでもわしは寒くてがたがたふるえておったよ。 そうするとな、川のほうに光りが見えるんじゃ。 ランプの光りのようで、ゆらゆら揺れながら近づいてくるようじゃ。」

ラモンおじさんは、テキーラのグラスをランプに透かして揺らします。

「嵐の真夜中に、川に誰かがおるはずはない。 これはおばけかゆうれいか、ともかくこの世の光ではなさそうじゃ。 これにはわしもさすがに怖くなった。 もう腰のひょうたんは空っぽじゃったからな。 わしは、ちぢこまってかくれながら、それでもその光を見ておった。 光はゆっくり近づいてくる。 船じゃ。 稲びかりの明かりで、川岸に小船が3艘ほど着くのが見える。 それからランプの光りがいくつも動き出し、人がおりてくるのが見えた。 黒い服を着た男達じゃ。 10人ぐらいおったじゃろうか。 男達は穴を掘り始めた。 わしのすぐ前じゃ。 それから、船から大きな箱をおろすと、その穴に入れた。 わしは、息を詰めて見ておった。 そうすると、男が1人こっちに来る。 見つかった。 わしは逃げようと思ったが動けなかった。 男はわしのまん前に来た。 腰のおおきな山刀を抜く。 刃が稲妻に白く光る。 もうだめじゃ。 わしは観念したんじゃ。」

ラモンおじさんは、テキーラグラスをテーブルに置くと、両手を合わせて目をつぶります。

「ラモン、末期のテキーラじゃ。 良く味わって飲むんじゃぞ。」

テオドーロおじさんが、新しくテキーラをグラスに注いでやります。 あははは…、みんな、大笑い。

ラモンおじさんは、テキーラのグラスを両手で包むと、ちびりと舐めて、また話し始めます。

「そうしたらじゃ、その男はな、わしの頭を山刀でコンコンと叩くとな、”おい、ラモン…、ラモン…。” なんとわしの名前を呼ぶじゃあないか。 声も聞き覚えがある。 ”ラモン、わしじゃよ。” 男はランプを顔に近づけた。 なんと、オルランドおじいさんじゃあないか。 ”ふっふっふっ、見ておったのかラモン、仕方がない、お前にやるわい。” オルランドおじいさんは、山刀をびゅんと振った。 バサリ、と大きな枝が落ちてきた。 オルランドおじいさんは、その枝をつかむと、穴の上に突き刺した。 ”ラモン、このアラモじゃ、忘れるな!” そう言うとな、オルランドおじいさんは山刀を振りかぶって、わしの頭に真っ向から振り下ろしたんじゃ。」

「キャー…」 セレステたちは、悲鳴を上げます。

「おいおい、もちろん刃をねかせてじゃ。 そうでないと、わしは頭を真っ二つに割られて、ここにはおらん。 今ごろは天国でテキーラを飲んどるよ。 それでもな、ガーンと目から火花が飛んで、わしは気を失ってしまったんじゃ。」

ラモンおじさんは、もう空になりそうなビンからテキーラを注ぎます。 ランプの光にテキーラがゆらゆらゆれています。

”コケコッコー…” ラモンおじさんが、突然叫びます。

みんなビックりして、やがて大笑い。

ラモンおじさんは、みんなが静まるのをなって、話し始めます。

「わしは目を開けた。 サバナのテントの中じゃ。 ニワトリの鳴く声が遠くから聞こえておる。 夜があけかかっておるんじゃ。 東の地平がほんの少し青くなりかかっておる。 ああ、わしは豆畑に水を入れておったんじゃな。 あわてて水の入りぐあいを見に行った。 ちょうどいいぐあいじゃ。 わしは水門を閉めた。 やれやれじゃ。 そこでわしは、昨日の晩からのことを考えてみた。 オルランドおじいさんは、わしがほんの子供だったころに死んでしまっておるんじゃ。 そうすると夢じゃった、ということになる。 それにしても生々しい夢じゃ。 おじいさんの顔や声まではっきりとおぼえておる。 それにな、山刀でたたかれたところをさわってみると、ちゃんとたんこぶができておる。」

ラモンおじさんは、おでこをぱちぱち叩いて、イテテテと顔をしかめて見せます。

「そりゃあ、アンタ、酔っ払って転んだんだよ。」

チャヨおばさんが言います。

ラモンおじさんは、じろりとチャヨおばさんを睨むと、顔をしかめて見せます。

「それからわしは、闇の中で見えた黄色いもやのことを思い出した。 ここから見たとすると、あのあたりじゃ。 大きなアラモの木が倒れていて、根っこのところの地面には大きな穴があいておる。 先月の大風で倒れたんじゃな。 わしはふと思って、その穴の底を掘ってみた。 すぐにスコップがカチリと音をたてて、金貨が1枚出てきた。 わしはまた掘った。 こんどは5枚ばかり出てきた。 それからもうスコップは、何かに当って入らなくなった。 でこぼこした岩のようなものがある。 わしは這いつくばって、土を払いのけてみた。 それは金貨のかたまりじゃった。 わしはあわてて回りを見た。 もちろん誰もおらん。 それでわしは、土をかけてもとにもどした。 それからずっと回り道をして、村に戻ったんじゃ。」

ラモンおじさんは頭を抱えて、きょろきょろ辺りを見回して、駆ける真似をします。 あはは、こんな風に、こっそりと村に帰ってきた訳ですね。

...明日に続く...

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2012年12月28日 (金)

童話シリーズ 第6話 ラモンおじさんの海賊話ーIII

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...昨日からの続き...

「あれは、そうじゃな、わしが学校を出てすぐの頃じゃから、30年も前になるかな。 10月の夜のことじゃった。 わしは村のいちばん南のはしっこの、サウセの豆畑に水を入れておったんじゃ。 あのシナロア川が北に曲がるところじゃ。 夏にはお前達も、サウセの淵に泳ぎにいくじゃろう。 まだグァサベのダムがなかったから、川はいまよりもうんと深かったし、流れも急じゃった。 そこいらでは、人や牛が溺れて死んだこともなんべんもあって、川底には深い穴があって、水が渦をまいて、引きこまれたら出られんという話しじゃった。」

「それで、おじさんはその穴に潜って、金貨を取ってきたの?」

「いやいや、わしは泳ぎは苦手じゃからな。 まあ聞くんじゃ。 ここまでは前置きじゃ。」

ラモンおじさんは、テキーラをちびりとなめて話しつづけます。

「そう、わしはそのサウセの深い淵のすぐそばの豆畑に水を入れとった。 水門を開けたのがお昼で、夜中までかかりそうじゃったから、わしは川土手に、サバナでテントを張って待つことにした。 さて、日が暮れた。 月のない夜じゃ。 霧が深くて、星明りもない本当の真っ暗闇じゃ。 わしはランプに火を入れて、腰のひょうたんのテキーラを飲んでおった。 するとな、ランプの火がちらちらゆれて、すうーっと小さくなって消えてしまったんじゃ。 なんと油がなくなっておる。 しくじったもんじゃ。 もう真っ暗闇も真っ暗闇、わしの手さえも見えんのじゃ。 鼻をつままれるまでわからん真っ暗闇じゃ。 もちろん水の入りぐあいもわからんし、村に戻って油を入れてくるどころか、何歩かテントから離れただけで迷子になりそうじゃ。 仕方がない。 わしはあきらめて、朝までじっと動かずに待つことに決めた。 油は忘れても、腰のひょうたんにはテキーラがいっぱい入っておったからな。 わしはこっちのほうは、絶対に忘れたりせんのじゃ、ワハハ...。」

ラモンおじさんは、空のグラスにテキーラを注ぐと、ひょいと持ち上げて見せます。

「そうと決まれば、ゆっくりと飲むだけじゃ。 テキーラがあれば、真っ暗闇で、1人で川の土手におるのもちっとも怖いことはないんじゃ。 それにしても、真っ暗闇じゃ。 こんな本当の真っ暗闇はみたことがない。 それこそ目をあけておるのか閉じておるのかわからなくなって、指で目をさわってみたりした。」

ラモンおじさんは、指で目をぐりぐりこすります。

セレステたちも、顔を見合わせて、目をぐりぐり、あははは…。

「それからホレ、暗闇で目を閉じたら、いろんな色の模様が見えるじゃろ。 わしは、紫色の四角いものや、青いもやもや丸いものが、大きくなったり渦を巻いたりするのを、目を開けたまま見ておったんじゃ。 するとな、目のいちばん下のはしっこに、うす黄色のもやが見える。 これは大きくなったり動いたりせんようじゃ。 なにかがかすかにぼうっと光っているようじゃ。 わしは目をパチパチさせたり、こすってみたりしたが、やっぱり黄色いもやがある。 不思議なもんじゃ。 そんなことを思っているうちに、わしは本当に酔っぱらって、眠ってしもうたんじゃ。」

「それで、朝おきたらそこに金貨があったの?」

子供達がわいわいたずねます。

「うん、まあそうなんじゃが、話はこれからなんじゃ。 だまって聞くんじゃ。 ああ、のどが乾いた。」

ラモンおじさんは、みんなをじろりと見渡すと、テキーラをぐびりと飲んで、話しつづけます。

...明日に続く...

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2012年12月27日 (木)

童話シリーズ 第6話 ラモンおじさんの海賊話ーII

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...昨日からの続き...

「フラビオ、セレステ。 ラモンおじさんにありがとうを言ったかい?」 チャヨおばさんが言います。

ラモンおじさんは、テオドーロおじさんとテーブルに向かい合って、ドミノをしながらテキーラを飲んでいます。

「ラモンおじさん、ありがとう。」

「ワハハハ…」 おじさんはごきげんです。

「まあ、わしじゃのうて、ご先祖の海賊様にじゃな。」

そして、ポケットから何かを掴み出すと、パチンとテーブルに置きました。

セレステ達は、首を伸ばして見ます。 それは大きな金貨でした。

そっと手にとってみます。 ずっしりと重く、ランプの光りにピカピカ光ります。 裏表に、船と女の人の横顔が彫ってあります。

セレステ達は、ラモンおじさんが毎年クリスマスに金貨を1枚売って、子供達のプレゼントを買うのだと、チャヨおばさんから聞いたことがありました。

「ねえ、おじさん、これおじいさんからもらったの? おじいさんは海賊だったの?」

「ワハハハ…、いやいや、まあそんなところかな。」

ラモンおじさんは、空のグラスにテキーラを注ぎます。

「うわぁ、おじいさん、本当に海賊だったんだ。」 「片目だった?」 「手がカギになってて、コップ引っ掛けてテキーラ飲むんだ」 「違うよ、ラム酒だよ、骸骨のコップだよ。」

子供達は、大騒ぎ。

「こらこら、ドミノが崩れてしもうたじゃないか。 せっかく、わしが勝つところじゃったのに…。」

もう、ドミノどころではありません。

「よし、そしたらな、わしがなんで金貨を持っとるのか、話してやろうか。 おーい、みんなこっちに来て座れ。 お前達もじゃ。」

チャヨおばさん達も、ぞろぞろ集まってくると、子供達といっしょに、テーブルの前に座ります。

「えへん、えへん...。」

ラモンおじさんは、テキーラのグラスを、マイクのように口元に持っていって、おどけて見せます。

ぱちぱちぱち...、ぴーぴー...、 拍手喝采。

ラモンおじさんはテキーラをかぷりと飲みこむと、話し始めます。

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2012年12月26日 (水)

童話シリーズ 第6話 ラモンおじさんの海賊話ーI

シナロア州の小さな村に住む9歳の少女、セレステのお話。 第6話です。 どうか、よろしく。

 

幼い頃に父母を亡くしたセレステは、子供のいないテオドーロおじさんとチャヨおばさんに貰われて、村はずれの小さな椰子の葉葺きのお家に、フラビオ兄さんと4人で住んでいます。

 

ラモンおじさんの海賊噺

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セレステが住む村は、シナロア川の河口から5kmほど入ったところの、川を見下ろす高台にあります。 西には青くうねる川と、その向こうに太平洋が見えます。

セレステのひいお爺さんが若かったころまでは、村の人はみんな海賊だったと言います。 まあ海賊と言っても、通りかかる船を襲って、お金や宝物を取りあげるような事はしなかったそうな。

...河口のあたりは浅瀬があちこちにあって、昔はハリケーンの時などに、よく船が乗り上げて動けなくなったり、それから横倒しになったりした。 浜に漂着する船もけっこうあった。 嵐が去った後、そういう難破船を見つけると、川端に繋いである小船を漕ぎだして、生きてる人がいれば救けてやる。 そして、船にあったものを洗いざらい頂戴する。 船板やマストの柱まで、ばらして村に持って帰る。 救けられた人は、たいていは村に残って村人になった...。

平和な海賊ですね。 今でも、そういう人の子孫がけっこういるそうです。

そういう訳で村には、古い外国の食器だとか、服や刀や鏡なんかを持っている人がいます。

ラモンおじさんは、古い金貨をたくさん持っていて、それは100年以上も前のものだと言います。

ラモンおじさんは、どうしてもお金がいるときに、その金貨をクリアカンの町に持って行って売ります。 1枚で3日ぶんの稼ぎになるのだそうです。

大晦日の夜のことです。 ノガレスという国境の町へ出稼ぎに行っていたラモンおじさんが、村に帰ってきました。 セレステ達は早速、ラモンおじさんに会いにいきます。

ラモンおじさんのお家から、にぎやかな音楽が聞こえてきます。 子供達の声も聞こえます。 いとこたちがみんな来ているようです。

セレステとフラビオ兄さんは、部屋に駆けこむと、ラモンおじさんにとびついていきます。

ラモンおじさんは、セレステを抱き上げると、ぎゅうっと締め付けます。 うわぁ、苦しい...。 息が止まりそうです。

「ホレ、一週間おくれのサンタクロースじゃ。」

リボンがかかった箱を、ポンとセレステの胸に置く。

セレステは、大急ぎで包み紙をやぶって箱を開けます。

「わあー、新しいバービーだっ。」

フラビオ兄さんは、リモコンのジープに乾電池を入れています。

いとこ達も、みんな新しいオモチャを持って大騒ぎです。

テオドーロおじさんとチャヨおばさんも、ラモンおじさんとハグすると、肩や背中を叩き合ってあいさつします。

テオドーロおじさんはテキーラの大瓶をドンとテーブルに置きます。

「さあラモン、乾杯じゃ。」

...明日に続く...

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2012年1月26日 (木)

童話シリーズ 第5話 ノエミちゃんの十字架ーIV

0bcanon1745_convert_20120121135433 ...昨日からの続き...

 

テオドーロおじさんは立ち上がると、トウモロコシの束を抱えて来て、座りなおしました。 ランプの光で、テオドーロおじさんの目に、涙が溜まっているのが分かりました。

”ええっ、それでノエミちゃんは、バスに轢かれて死んじゃったの?”

テオドーロおじさんは、うんうんうなづきながら、ランプに来た大きな蛾を見ていましたが、また話し始めました。

”おばさんはな、バスが来るのを見て、びっくりして叫んだんじゃ。

ノエミ、危ない、そこで待っとれ。 バスが来た。 危ない、そこで待っとれ。

ノエミちゃんもびっくりしてバスを見て、いったん立ち止まりかけた。 けれどもまた走り出すと、道へ、バスのまん前に飛び出したんじゃ。”

テオドーロおじさんは、ふうと大きく息をつきます。 しばらく目を閉じていましたが、また話し始めます。

”どんっ...、バスはノエミちゃんを撥ね飛ばした。 おばさんの目の前じゃった。

ノエミー...、おばさんはノエミちゃんを抱き起こした。 耳と鼻から血が流れ出ていて、頭が割れてしまっているようじゃった。

ノエミー...、おばさんが泣きながらノエミちゃんを呼ぶ。 するとノエミちゃんはな、おばさんの腕の中で目を開けると、かすれたほとんど聞き取れない声で言ったんじゃ。

...おばさん...、ごめんなさい...、轢かれちゃった...、おばさんの言う事を聞かんで、轢かれちゃった...、ごめんなさい...、おこらないでね...、ごめんなさい...

おばさんはノエミちゃんに言う。 だいじょうぶ、おこったりしないよ、だいじょうぶだからね...

それでもノエミちゃんは、おばさん、おこらないでね、おこらないでね、と繰り返して言うんじゃ。

そうしたらな、おばさんはノエミちゃんを横たえるとな、耳に口をつけて、ほらノエミ、見てごらん、と言った。

そしてな、ほら見てごらん、と叫びながら立ち上がるとな、そこに止っていたバスに、ノエミちゃんを撥ね飛ばしたバスに、頭からぶつかって行ったんじゃ。 まるで雄ヤギのような、凄い勢いで、うわあぁ~...、と唸りながら、真っ直ぐに頭からぶつかって行ったんじゃ。”

0bcanon1580_convert_20120121134946”ゴツンと大きな音がして、おばさんは撥ね返されて倒れた。 頭から血が噴き出しておった。

おばさんは、ノエミちゃんのところに這って行くと、ノエミちゃんを抱きしめて言った。

ノエミ、見たかい...、ほら、おばさんも轢かれちゃったよ...、ノエミといっしょや...、おばさんも轢かれちゃったよ...、心配せんでいいからね...。

するとどうじゃ、ノエミちゃんは、おばさんの胸に顔をうずめて、安心して、にっこり笑ったんじゃ。”

”すぐに救急車が来たんじゃが、ノエミちゃんは、その時にはもう、息をしとらんかった。 だけどもノエミちゃんは、笑っておった。 楽しい夢を見ながら眠っているとしか思えん、それはきれいな顔じゃった。 それからおばさんも、ノエミちゃんを抱いたまま、もう息をしとらんかったが、やっぱり楽しそうに笑っておった。”

テオドーロおじさんの目から、涙がこぼれ出て、髭だらけの頬を伝って落ちました。 チャヨおばさんも、フラビオ兄さんも、目が真っ赤です。 セレステの頬も、いつの間にか涙で濡れています。

0bcanon1856_convert_20120122121904かわいそうなノエミちゃん...。 かわいそうなおばさん...。  

いちど立ち止まりかけたノエミちゃんは、どうしてまた走り出したのでしょうか。 少しでも早く、おばさんの所へ行きたかったのでしょうか。

自分でバスにぶつかって行ったおばさん。 どんなに悲しかったことでしょう。 どんなにノエミちゃんが愛しかったことでしょう。

でもな、そうしてあの2人の魂はな、しっかりと抱き合ったまま、いっしょに天国に行ったんじゃろうな。 いつまでも、どこででも、いっしょにおるんじゃろうな。”

泣き顔のみんなを見て、テオドーロおじさんが言います。

そうでしょう、きっとそうに違いない...、セレステは思います。 また涙が溢れ出てきます。

”それでな、あの二つの十字架はな、バスの運転手と校長先生が作って、あそこに置いたんじゃ。 まだあのワムチが若木だった、ずいぶん昔の事じゃ。 その運転手さんも校長先生も、もうよその町に行ってしもうた。 ノエミちゃん達の事を憶えておるのも、わしの他にいくらもおらんようになってしもうたのう。”

0bcanon2187_convert_20120121140301”まあな、セレステ、十字架には乗ったりせんほうがええぞ。 みんな気の毒な人たちじゃからな。”

すっかり涙が乾いたテオドーロおじさんが、じろりとセレステを睨んで言います。 

セレステは、唇を噛みながら、うんうんうなづきます。

あの小鳥達や子供達が集うワムチの木陰には、ノエミちゃん達の魂が住んでいて、セレステたちを見ているような気がしますから。

...お終い...

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2012年1月25日 (水)

童話シリーズ 第5話 ノエミちゃんの十字架ーIII

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...昨日からの続き...

 

”ノエミちゃんはおとなしい子で、村の子供たちと遊んだりはしなかった。 いつでもおばさんと一緒にいて、ほかの子達が遊ぶのを見ておったよ。”

”わしが傍を通りながら、ようノエミ、お早うさん、なんて言うとな、ちっちゃなノエミちゃんは、お目々をぱちぱちさせてわしを見上げて、笛みたいなきれいな声で、お早うございます、なんて澄ました顔で挨拶したよ。 それからおばさんの後ろに隠れて、恥ずかしそうに笑ったりした。 可愛い子じゃった。”

”ノエミちゃんは、7つか8つぐらいだったのじゃと思う。 もう学校に行ってないといかん年頃なんじゃが、なんでも出生証明がないから、入れてもらえんという話じゃった。 それでもおばさんはノエミちゃんを連れて、何遍も学校に頼みに行ったし、村長さんも一緒に頼んだりしてな。 まあ学校のほうも困ったんじゃろうな、とりあえずは生徒としてじゃなくて、勝手に来て勝手に教室に座ってるだけにしといて、手続きは追々嘘の書類でも見つけてきて何とかしよう、ということになったんじゃ。”

0bcanon1714_convert_20111215105329”それで、あれは5月頃じゃったかな、ワムチの実が白くはじけとったからな。 おばさんは、ノエミちゃんを学校に連れて行って、教室に1人でおいてきたんじゃ。”

”ノエミちゃんは、教室の隅っこで、寂しそうに1人で座っておったそうじゃ。 なにせ今まで、いつでもどこでも、おばさんと一緒じゃったからな。 それでも泣きはせんで、行儀良く座っておったそうじゃ。”

”おばさんのほうはな、ノエミちゃんを教室においてくると、あのワムチの樹の下に来て、待っておった。 立ったり座ったり、そわそわそこいらを歩き回ったりしながら、3時間以上も待っておったんじゃ。”

”そうするとな、カランコロンと教会のお昼の鐘が鳴り出した。 ノエミちゃんの教室は一年生じゃから、お昼でお終いじゃ。 おばさんは、ワムチの木の下から背伸びをして、学校のほうを見ておった。”

”教室のドアが開いて、子供達が出てくる。 最後に、白くて髪の長いノエミちゃんが出てくるのが見えた。”

ノエミー...、ノエミー...

”おばさんがノエミちゃんを呼ぶ。”

”ノエミちゃんは、ワムチの木の下のオバサンを見つけた。 寂しそうだった顔がパッと輝いて、にっこり笑うと駆け出した。 あっという間に他の子供たちを追い越すと、校庭の裏門を抜けて駆けて来た。 そこへな、グァサベの町からのバスが走って来たんじゃ。”

。。。明日に続く~...

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