ネコの不思議話

2017年5月10日 (水)

グドのアマパ

023b_2昨日記事にしたピンクのアマパ、Tabebuia roseaですが、我が家にもあります。 若木ばかり。 みんな、テアカパンに引っ越してきてから植えた子たちですから。

この木は、去年から、花を咲かせています。 グドのアマパって呼んでる木。 息子の愛ネコ、グドが死んだとき、息子が御墓に植えた木です。 今が花盛り。

グドのことは、一度書いていますので、ぜひご覧ください。 http://teacapan.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-b16f.html

グドが死んだのは2009年だから、この木は今年で8年になる。 初花は去年で、7年目。 苗のころから成長が早くて、どんどん伸びたんですが、他の丈が低いアマパが、もう花を咲かせているのに、この木だけは咲かなかった。

去年の春、息子と木を見上げながら、おい、お前のグドの木だけ、花が咲かないぞ。 今年は咲くよ、うんと色が濃い花だよ。 どうして分かるんだ? グドが僕にそう言ったよ。

その時は特に気に留めなかったんだけど、本当に初花が咲いた。 言った通り、珍しい濃いピンクの花だった。

ところが今年は、他のアマパが咲いている4月初めには、花が咲かなかった。 イースター休暇で帰省した息子と木の下で、おい、今年はお前のグドのアマパだけ、咲かなかったぞ。 5月に咲くよ、今年は枝いっぱいに。 本当か? うん、グドが僕にそう言ったよ。

グドがそう言ったって、グドと話せるのか、お前? よく夢に出てくるよ、それからいつでも呼び出せるんだ、寝てる時にね。 息子は、しれっとした顔で言うのね。

そして今、本当に枝いっぱいに濃いピンクの花が咲いている。

う~む...。 確かにこの子は、人間以外の生き物とのコミュニケーションには長けていて、普通じゃないところがあるんですよね。 グドはあの時以来、僕にはいなくなってしまったんだけど、息子にはちゃんといるみたいです。 そういうことも、あるんでしょうね。 息子を見てて、ずっとネコたちと暮らしてて、間違いなく、そういうこともあるんだと思います。

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2016年12月13日 (火)

命って何だろう?

Img_6132bbl子猫のレイチャ、昨夜死にました。 一緒に過ごしたのは一週間だけですが、レイチャのことは、いつまでも忘れない。

 
先週の火曜日のお昼前、僕が庭の落ち葉を掃いていたら、レイチャが僕の足元に来た。 僕は思わず目をそむけた。 レイチャの両後ろ足は潰れて泥だらけ、まるでぼろ雑巾のようだった。
 
前足だけでイモムシみたいに這って、レイチャは僕のところに来た。 僕を見上げて、ミャオと鳴く。 抱き上げると、ゴロゴロ喉を鳴らす。 その振動が掌に伝わって来る。 僕たちは鼻を合わせて、ネコ流の挨拶をする。 
 
レイチャの後ろ足は、両方とも腰のところから完全に砕けていた。 車に轢かれたのだろうか? だけど怪我をしてからかなり日が経っている。 たぶん2週間以上。 血が通わないから、足先から壊死が始まっていた。 でも上半身は清潔だ。 生後3か月ぐらいだろう。 母ネコが舐めてきれいにしていたことは明らかだ。
 
数分前、僕は車の音を聞いていた。 うちの前に止まって、すぐに走り去った。 手に負えなくて、うちに投げ捨てて行ったんだろう。 母ネコから、引き離して。 悪い奴。 でも、この子は助からない。 水路に放り込むより、優しいのかもしれない。
 
ともかく、世話をすることにした。 もうすぐ星になる子。 星はスペイン語でエストレィジャ。 茶色のお星さまだから、レイチャ。
 
レイチャは、腰の骨も折れているようで、排便が出来ない。 もちろん、後肢がボロボロだから穴も掘れない。 尿も染み出すだけだ。 食欲はあり、水もよく飲んだが、お腹がパンパンに張った。 流水で下半身を洗って、テラスの日なたに横たえる。 体が乾くと、レイチャは眠ってしまった。
 
レイチャは日が昇ると、下半身を引きずって這い出し、日なたに横たわってご機嫌だった。 だけど壊死は進み、日々衰弱する。 4日目からは、何も食べなくなり、水も舐めるだけになった。 夜には段ボール箱の寝床に入れて、這い出さないように蓋をした。 夜明け前には、ミャオミャオ鳴いた。 母ネコを呼んでいたのだろう。
 
昨夜、寝床に入れた時には、レイチャはもう頭すら動かせなかった。 でも今まで以上に、ゴロゴロ喉を鳴らして僕を見つめる。 死にゆく動物の目って、どうしてあんなにきれいなんだろう。
 
僕がシャワーを浴びて戻ってきたら、もうレイチャは死んでいた。 体を長々と伸ばして。 まるで、無くなってしまった後ろ足まで伸びをしているようだった。 うっすら開けたままの目に、涙が溜まっていた。 
 
レイチャは、何のために生まれてきたんだろうか?
 
僕はいつも動物たちと暮らしていて、小さな命が消えていくのを、生まれてすぐに消えていく命を、たくさん見てきている。
 
命って、いったい何なんだろうね? 今までに、どれほどの命が生まれ、消えていったことか。 そして、これからも。 まるで、流れの中の泡のようなもの? でもその泡には、それぞれ確かに自我があり。 命って、ほんのかりそめのことで、その向こうには、永劫不変なものがあるのだろうか?

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2016年5月26日 (木)

夢のネコ

Img_3883 僕は、夢をよく見るほうだと思う。 でも目覚めた時には薄れてしまっているし、すぐに記憶の奥に仕舞われてしまって、どうにも取り出せなくなる。 皆そうなのだろうか?
 
時々、どこかで見た景色だ、とか、前にあったことだ、なんてことがある。 確信をもって。 よく考えれば、そんなはずは絶対にないのに。 それは、奥底に仕舞われていた夢の断片が、唐突に現れたのだと思っている。
 
僕は、ここ3夜、続けざまに夢を見ている。 鮮明な夢。 めったにないことだ。 あんまり鮮明なんで、寝床で何度も思い起こした。 それで、はっきりと思い出せる。 いずれもネコと水の夢だ。
 
 
>最初の夢。
 
 僕は夜道を家路を急いでいる。 海のにおいがする水路に沿った暗い道。 先に橋があるのを僕は知っている。 思いがけなく僕の飼いネコが僕の前に現れた。 どうしてこんなところに? 僕はネコを腕に抱きあげる。 大きなネコだ、すぐに腕が疲れた。 橋を渡る前に逃げられたらネコは迷子になってしまう。 僕はネコの前足をしっかりと掴む。 そして橋を渡る。 コンクリートの運河。 暗い水面が揺れている。 橋を渡り終える。 もう大丈夫と思ったとたん、ネコは僕の腕をすり抜けて闇に消えた。 僕はたまらない不安に駆られて夜道を駆けだす。 ネコは目の前で僕を見ている。 いた! 僕は駆け寄ろうとする。 でも近づけない、どうしても。 ここで目が覚めた。 胸の動悸を静めながら夢を思い返しているうちに、あのネコが、近所の人が仕掛けた毒餌で死んだ、野良猫上がりのオリソンタルだったのに気が付いて驚いた。
 
 
>次の夜の夢。
 
 目に前に大きな岩があり、波が砕けている。 とても通れない大きな波だ。 でも僕は向こうに行かなければならなかった。 迂回路の石畳の道を行く。 村に出た。 来たことがある村だ。 トラネコが現れた。 僕の飼い猫だ。 ここは僕の村だったのかな。 安堵と不安の混じった気持ちだ。 やがて僕はネコを膝に乗せて海を見下ろす岩に座っていた。 やっぱり違う、早くここを立ち去らないと。 でもネコは膝の上で寝ている。 起こしてはいけない、起きるまで待たなきゃ。 焦燥に駆られながら僕は動けない。 やがて沖に巨大な波が見えた。 来た! そう思ったとたんにネコは僕の膝を蹴って走り去る。 待ってくれ! ぼくはネコを追おうと立ち上がる。 目が覚めた。 まだ夜半過ぎだった。 朝まで胸の焦燥感は去らなかった。 あのネコが誰だったのか、いくら考えても分からない。 夢の中では確かに僕の飼い猫だったのに。
 
 
>昨夜の夢。
 
 僕は木の板でできた橋の上に座っていた。 隣にクロネコがいる。 漁網を積んだ小さな漁船が橋の下を行き来している。 クロネコはいきなり船に飛び降りた。 僕は慌てて浜に駆け降りる。 船は遠ざかっていく。 やがて僕は真っ暗闇で波に揉まれて浮いている。 そして僕は船の上にいた。 横にクロネコがいる。 月夜の鏡のような海面を船は滑っている。 薄黄のクロネコの目に青い月が映っている。 クロネコは僕を仰ぎ見て、笑って言う、岸に帰らなくていいのか? 僕は急に不安になって立ちあがる。 船が大きく揺れて僕は海に落ちそうにつんのめる。 そこで目が覚めた。 まだ夜明けには間がある時刻だった。 満月が、窓から僕を見下ろしていた。 あのクロネコも、僕がよく知っているネコなのに、誰だかわからない。 僕に縁があったネコたちの複合体だったのかもしれない。
 
 
僕がいつか、冷たい夜の雨に打たれながら、真っ暗な川面を、たった独りで渡るとき、ネコたちがそっと、導いてくれるのだろうか?

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2015年11月20日 (金)

新しい星屑

Img_0358_convert_20151120082657愛ネコ、ミケサマが死んだ。

春からずっと下痢気味で体調が悪かったのだが、日曜日に僕が出張から戻った時には、危篤状態になっていた。 僕が家を出た夜から、ずっと僕のデスクの下に横たわったままだったそうだ。

僕の足音を聞きつけて、ミケサマは顔を上げ、緑色の目を細めて僕を見る。 ほんの5日間留守にしただけなのに、ほとんど骨と皮だけに痩せていた。

翌日も、その翌日も、ミケサマはPCに向かう僕の足元にずっと横たわったいた。 家内の言うには、僕が野良仕事に出ると、居なくなるそうだ。 あんなに弱った体でどこに行くんだろうか。 僕が家に戻ると、ミケサマはもうデスクの下にいる。

そして昨日、僕が暗くなってから戻ると、家内が部屋を掃除していた。 ミケサマがいない。

ミケサマは? 掃除を始めたら、出て行ったわよ。 家内は、トイレに行けなくなったミケサマが部屋を汚すのを嫌がっていた。 家内の気持ちを察して出て行ったか? あるいは、追いだしたのかもしれない。

どっちへ行った? 知らないわ。 家内は素っ気なく答えた。

僕は、裏戸を押してテラスに出た。 月明りに光る床に、ミケサマはいた。 僕を見ると、ここもダメなのか、と立ち上がり、歩み去ろうとする。

違う違う! 君に会いに来たんだ...。 ミケサマは振り向いて僕を見つめる。 やがて、僕の足元に丸くなった。 僕は喉を撫で、体をさすってやる。

ミケサマの体は、もう冷たくなり始めていた。 ミケサマはまっすぐに僕を見ている。 その目に不思議な力が宿り、明るく強く輝いているのを僕は見た。 焦点はぴたりと僕に合っているのだけれど、他の何かを見ているようでもあった。 ミケサマには、これから行く世界が、はっきりと見えているようだった。

僕はずっとこうしていたかったのだけれど、やがてミケサマは僕から視線を外すと、前足の間に頭を落とし、静かに目を閉じた。

さよなら、ミケサマ。 ...ええ、さよなら...。

僕はミケサマの体を横たえると、真っ暗な庭に出た。 西空に黄色い半月。 せわしく瞬きながら昇り来る冬の星座たち。 夜空全体が楽を奏でているようだ。

...あの高く歌うオリオンの、少し夜露で滲んだ剣のあたりに、もうすぐ新しい、青い小さな星屑が生まれる...。

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2013年6月13日 (木)

童話 グルニャンの贈り物

先週から、立て続けに、愛ネコを亡くしました。 一緒にコリマへ行こうぜ、フニャ~ン...、なんて言い合ってたのに。 僕たち家族の不運を、一手に背負って死んでくれたような気がしてます。

回想録は、休ませていただいて、今回は哀悼の気持ちを込めて書いた童話です。

それでは、グルニャンの贈り物。

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グルニャンの贈り物


イルダの可愛い茶トラネコ、グルニャンが死んでしまいました。

朝、学校に行くときには、るるる、と喉を鳴らして見送ってくれたのに。
 
 
お昼に、おうちに戻ると、お母さんに呼ばれました。
 
イルダ、とても悲しい知らせなの。 グルニャンが死んじゃったのよ。
 
 
お母さんは、イルダの肩を抱くと、裏庭に連れて行きました。
 
グルニャンは、いつもお昼寝をしていた、物干し台のタオルの上に、体をまっすぐに伸ばして、横たわっていました。
 
 
イルダは、グルニャンを抱き上げました。
 
グルニャンの体は冷たくて、うっすら開けた目は、ガラス玉のようでした。
 
グルニャン...。
 
涙が頬を伝って、ぽたぽたと、グルニャンの顔に落ちました。
 
 
お母さんがさっき、洗濯物を持って来たら、グルニャンがぶるぶる震えて、苦しんでいたの。 すぐに、動かなくなってしまった。 グルニャン、すっと木戸のほうを見ていたわ。 イルダが来るのを待ってたんだと思うの。
 
お母さんは、イルダの腕から、そっとグルニャンを抱き取ると、ライムの木の下に掘ってあった穴に、横たえました。
 
 
さよなら、グルニャン...。
 
グルニャンの体が、土に隠れた時、グルニャンとは永久にお別れなのが、はっきりと分かりました。
 
グルニャン...、グルニャン...。
 
イルダは、お母さんに抱きついて、わあわあ泣きました。
 
 
イルダは、その日の夕方、一人で浜に行きました。
 
誰にも会いたくありませんでしたから。
 
 
波が寄せる砂浜を、グルニャンのことを考えながら歩きました。
 
潮風が、ぶうぶう耳を鳴らして、吹いていきます。
 
 
イルダは、グルニャンが喉を鳴らすのを聞いたような気がして、顔を上げました。
 
濡れた砂の上に、貝殻があります。
 
今までに見たことのない、大きな巻貝です。
 
 
貝殻は、夕日に透けて、きらきら輝いています。 茶色の縞模様が、グルニャンそっくりです。
 
 
グルニャン...?
 
 
0aaaaaaaacanon510_convert_201306130 また、潮風が、ぶうぶう吹いていきます。
 
お空には、ちぎれ雲が、夕日に染まって駆けています。
 
お空のどこかから、グルニャンが喉を鳴らして、イルダを見ているような気がします。
 
 
この貝殻は、グルニャンからの贈り物なのだわ。
 
 
イルダは貝殻を手にとって、そっと唇を押し当てました。
 
それは、イルダが大好きだった、グルニャンの桃色のお鼻のように、ひんやりと冷たく、少ししょっぱかったのであります。
 
 
...お終い...

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2012年10月 9日 (火)

ネコの不思議話 第五話 チョピン

ネコの不思議話、第五話です。 チョピン

音楽好きの、最弱シャムネコ。

Canontest375_convert_20120925123642 チョピン

チョピンは、我が家で産まれた最初のシャムネコだった。 母ネコは、白灰トラ。 どこで種を貰ったのだろう? 兄弟は、クロネコ、トラネコ、灰トラ、長毛トラと見事にバラバラだった。

ある日、僕がショパン(CHOPIN、メキシコでは、そのままチョピンと発音する)をかけたら、まだ子猫で名前もなかったチョピンがやってきて、スピーカーの前に座った。 青い目をぱちぱちさせて、熱心に聴いているようだった。 それで、偉大な音楽家の名前で呼ばれるようになった。

  

チョピンは、大きなオスネコだった。 だけど動作が鈍重で、昼も夜も、たいていは上の娘の部屋の窓で寝ていた。 そして、たまに外にでれば、たちまちうちを縄張りにするノラネコに見つかって喧嘩になり、必ず負けた。 屋根の上で取っ組み合いになり、絡み合って転げ落ちて来たときも、チョピンが必ず下だった。

チョピンはお人よしで、いつも人のされるがままにしていた。 仰向けに転がされても、服を着せられたり、帽子をかぶせられても、意に介さず穏やかに目をつぶっていた。 愛すべき、いじられ役のキャラだった。

  

チョピンは、4歳の秋に、突然行方不明になった。 シャムネコは、僕の住む地方では稀だ。 近隣の村も含めて、チョピンは唯一のシャムネコだった。 それで、シャムネコは高く売れる。 だから、たぶん盗まれたのだと思う。 種ネコにしようと思ったのかもしれない。 気のいいチョピンだから、捕らえるのは容易だったはずだ。

僕たちは村中を探し、聞いて歩き、隣の村に人達にも探してもらったが、チョピンは見つからなかった。

  

一ヶ月あまりが過ぎ、チョピンのことも、もう過去の話になった頃だった。 僕たちは、原野の湿地帯を歩いていた。

”チョピン!”

突然、2歳半になる末娘が叫んだ。

僕たちは驚いて、娘の視線を追った。

だけどそこには、鳥が一羽いただけだった。

0aaaaaacanonaa アメリカトキコウ。

コウノトリの仲間で、僕の胸ぐらいもある、大きな鳥。

黒いハゲ頭と薄墨色の首。 白い翼と体。 チョピンに、色合いが似てないこともない。

な~んだ。 僕たちは顔を見合わせて笑った。

だけど、すぐに笑いを消した。 その鳥の何かが、いや全てが、チョピンそのものだった。

その鳥は、ほんの10mほどのところに立って、小さな黒い目でこちらを見ていた。

”チョピン!” 

末娘は駆け出そうとした。 娘には、チョピンの姿がはっきり見えているようだった。 だけど前は、水草の浮く沼だった。

末娘はじっと鳥を見ていたが、僕たちを振り返って言った。

”チョピン、行っちゃうって...。”

  

”さよなら、チョピン...”

末娘は小さな掌を、ひらひら振った。 それに驚いたように、鳥は大きく羽ばたいて飛び立つと、僕らの上を通って、湿地帯の奥へ飛んでいった。 遠くにアメリカトキコウの群れが休んでいるのが見えた。

  

僕らは、今のは何だったんだろうかと話し合った。 チョピンの身に不幸が起こって、さよならを言いに来たのか? 末娘は、”チョピン、行かなきゃいけなかったの”、と言うばかり。

僕たちの結論は、こうだ。 チョピンはどこかの金持ちの邸宅で、メスネコ達に囲まれて元気にしてる。 もう戻れないし、こっちのほうが良いから、それで今までのお礼とサヨナラを言いに来たんだと。 だからあの鳥は、仲間の所へ飛んで行ったんだと。 

チョピンの奴、負けっぱなしで、恋人もできなかったからね。 上の娘が、泣き笑いの顔で言った。

それからあの日以来、チョピンの化身、アメリカトキコウは、我が家ではチョピンと呼ばれるようになった。 僕はいつでも、原野でアメリカトキコウを見ると、気になって仕方がない。 あんなにはっきりと、チョピンの面影を見ることはないけれど。

これで、ネコの不思議話シリーズを、いったんお終いにします。 また忘れた頃に、新しいお話を載せられればと思っています。 ご愛読、有難うございました。

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2012年10月 8日 (月)

ネコの不思議話 第四話 オリ

ネコの不思議話、第四話。 オリ

闘病の末、一人で旅立った子。

0bcanon2065_convert_20120925125304 オリは斑トラの、小柄なオスネコだった。 特別に柔らかい、ウサギのような毛並みをしていた。

快活な子で、大人になってからも、よく他のネコ達とじゃれあっていた。 時には、うちを縄張りにするオスのノラネコと、仲良くくっついて寝てたりもした。

小さいときから、木登りが好きだった。 イグアナを追いかけて、幹を駆け上る。 イグアナが反転して下に行ってしまうと、オリは木の上に取り残される。 下りて来い~、なんて呼んでるうちに、オリと言う名前になった。

ネコの体は、幹に登れても、降りられないように出来ているようだ。 梯子が届かない枝で、長いことミャウミャウ鳴いた後、転げ落ちてきたこともあった。

  

そんなやんちゃなオリに、不幸な事故が起こった。

ロバの鞍で寝ていたオリが、物音に驚いて飛び降りた時、後ろ足を鐙のロープに引っ掛けて宙吊りになった。 苦しげに鳴くのをなだめてやっと外してやると、オリはベッドの下に駆け込んで、半日出て来なかった。

そして翌日から、後肢の麻痺が始まった。 麻痺は進み、僕の膝に飛び上がれなくなり、下半身を引きずって歩くようになった。 獣医に見せたが、もうこれは、どうしようもないようだった。

やがて麻痺は全身に広がり、10日ばかりすると、オリは寝たきりになった。 それでも、オリは快活だった。 便と小水で汚れるので、2日に一度ぬるま湯で洗う。 あんなに嫌いだったお風呂なのに、オリは僕をじっと見つめていた。 そしてタオルでごしごし拭いてやると、顔を僕の手に擦り付けて甘えた。

安楽死、という単語が、いつも僕の脳裏にあった。 だけど、いつもご機嫌なオリを見ると、とても出来なかった。 奇跡が起こるとは思えなかったが、このままでずっと生るかもとも思った。

0bcanon2369_convert_201201261330443週間ばかりの闘病の後、最期の日が来た。 その朝、オリの緑色の目は、いつもより大きくなり、明るく深く澄んでいた。 もう顔も動かないようだった。

僕は、オリに目で挨拶をする。 オリも、僕をまっすぐに見つめた。

”やあ、オリ。 どうだい、もうダメかい?”

”ええ、もうダメなようです。”

”食べ物を待ってきたけど、食べられる?”

”ええ、ありがとう、いただきます。”

顔の前に肉の細切れを持っていくと、オリはピンクの舌で受け取って、ゆっくりと噛んだ。 それから、僕の掌から水を舐めた。

”少し、傍にいようか?”

”いいえ。 これからは、一人で行きますから。”

オリは、一人になりたいと、強い意志で伝えてきた。

”わかった。 じゃあ、さよならだね、オリ。 どうも、ありがとう。”

”ええ。 さよなら。”

僕は立ち上がり、それからオリを見下ろした。 オリは、もうその時には、僕を見てはいなかった。 その瞳に、朝の空と木立が映って、きらきら揺れていた。

 

僕は歩み去りながら、不思議なことに気がついた。 僕たちは、なんとも鮮明に意思を通じ合わせていた。 人との、言葉を介した、どんな対話よりも鮮明な。

オリとは、なんとなく通じてるな、という刹那が度々あったのだが、こんなことは初めてだった。

 

オリのことは気になったが、望み通りに一人にしておいた。 そして、お昼前に行ってみると、もうオリは死んでいた。 別れてから、寸分も動いた様子はなかった。

僕はふと思って、ついさっきしたように、オリを心で呼んでみた。

”オリ、いるかい?”

何の返信もなかった。

”オリ...、オリ...、どこだい?”

空からも、雲からも、風に揺れる木立からも、なんの返信もなかった。

僕はオリのなきがらを抱き上げた。 空気のように軽かった。 オリは、行ってしまっていた。

オリはきっと、木に登るときにしたように、目をらんらんと輝かせ、ばりばりと爪を立て、たった一人で、意気揚々と天に駆け上っていったんだと思う。  

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2012年10月 7日 (日)

ネコの不思議話 第3話 ベロのお話

ネコの不思議話、第三話。 ベロのお話。

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ベロのお話

ベロは、金色の目の、メスのクロネコだった。

メキシコでも、クロネコは嫌われる。 乳離れすると、兄弟たちは里親に出されていったが、5人兄弟の唯一のクロネコだったベロだけは貰い手が無かった。

それで、隣家のベロニカという少女を説得して、やっと行き先が決まった。 それまで名前が無かったのだが、ベロニカのネコと呼んでいるうちに、ベロという名前になった。

ベロニカはベロを可愛がってくれたが、兄がクロネコのベロを嫌った。 足蹴にして家から追い出し、石を投げることもあった。 ベロは、兄が学校から帰ってくる時刻になると、塀を飛び越えて我が家に来た。

  

その頃、僕たちはテアカパンに来たばかりで、2寝室の家に仮住まいをしていた。 やがて、村の入り口の廃屋を買い取り、修理して引っ越した。

僕は、置き去りにしたようで、ベロが気がかりだった。 ベロは、空き家になったあの家に、来ているのだろうか。

  

行ってみると、ベロはいた。 荒れ果てた前庭に、行儀良く座って僕を待っていた。 僕は通りかかるたびにベロを呼ぶようになった。

  

一ヶ月ばかりの後、新しい入居者が決まった。 若い夫婦で、2頭の大きなラブラドール犬を飼っていて、大のネコ嫌いだと言う。 ベロは行き場所を失うだろう。 最悪の事態も考えられた。

僕は、ベロを我が家に連れてきた。 だけども、その頃我が家には、10匹を越えるネコがいた。 一度は里親に出したネコだ、再度貰い手を捜すことになった。

ベロを連れての里親探しの末、村はずれの、二人暮しの牛飼いの老夫婦が、行儀が良く人懐っこいベロを気に入ってくれた。

ベロは安住の場所を得た。 毛並みは艶々と輝き、いつも穏やかな顔をしていた。 

ベロは、僕を憶えてくれていた。 僕が通りかかると、戸口に座って僕を見つめ、喉をなでると気持ちよさそうに目を閉じた。

  

3年後、老夫婦の所に、実家でお産をするために、臨月の娘が里帰りしてきた。 娘は、クロネコのベロを不吉がった。 それでも、辛くするようなことは無かったそうだ。 できるだけ、娘に近づけないようにしただけだと。 その一週間後、ベロはいなくなった。

それを聞いたとき、僕の胸は酷く痛んだ。 ベロは、自分が嫌われていることを悟って出て行ったのか? それとも、娘に老夫婦の愛情を奪われて、嫉妬したのか? だったら、うちに来てくれれば良いのに。 だけど、2回も里親に出しておいて、それは身勝手な願いだった。

ベロはどこに行ったのだろう? 食べ物には困らない漁村だ。 人間とはもうたくさんと、どこかで気楽なノラネコ稼業をしているのだろうか?

それからこれは、老夫婦から聞いた話。 ベロは4回のお産で、20匹近くの子猫を産んだが、不思議なことに、完全なクロネコは一匹もいなかったそうだ。 こげ茶色とか、黒地に濃い縞のは、いたそうだけど。

ベロは、自分がクロネコなのを、知っていたのだろう。 クロネコに産まれたことを、どう思っていたのだろうか? 

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2012年10月 6日 (土)

ネコの不思議話 第二話 名もないノラネコの死

ネコの不思議話、第二話、行きます。 名も無いノラネコの死。

井戸を見るたびに、それからピンクのニチニチソウを見るたびに、思い出す。

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名も無いノラネコの死

ネコが井戸で死んでるわ。 家内の呼ぶ声で、目が覚めた。 僕は大慌てで、庭に飛び出した。

井戸を覗き込むと、暗い水の底に、白い物が沈んでいる。 確かにネコのようだ。 僕は梯子を井戸に突っ込み、底に降りて行った。

うちのほうでは、地下水位が高く、井戸の深さは4mぐらいしかない。 それに春の渇水期なので、水深は1m以下だ。 冷たい水に腰まで浸かって手を伸ばし、尻尾を掴んで引き上げた。

時々見かける、大きな斑トラのノラネコだった。 苦悶の表情はなかったが、薄く開いた目が、無念そうだった。

実は僕は、夜半に物音を聞いていた。 大きな水音。

そうか、あの時に...。

真夜中に、真っ暗な井戸の底で、冷たい水の中で、たった一人で死んでいった名もないノラネコ。 可哀そうに...。

僕は、飼いネコたちの墓の隣に埋葬し、いつもそうするように、初花をつけたニチニチソウの苗を掘り取って植えた。 本当は樹木の苗木を植えるのだが、手ごろなのが無かったから。

  

その夜、僕は夢を見た。

夢の中で、僕とノラネコはじゃれあっていた。 追いかけっこをし、取っ組み合いをし、僕を組み伏せると、顔を舐めはじめた。

うわぁ、くすぐったい。 舌のざらざらが、頬に痛い。

お前、死んでるのに、凄い勢いだな、なんて思いながら目が覚めた。

なんと、僕の頬を舐めていたのは、うちのボケネコ、ナロだった。 ナロは、僕が目を覚ましたのを見ると、舐めるのを止めて枕元に丸くなった。 ナロが僕にこんなことをしたのは、後にも先にも、この時だけだった。

 

あれはいったい、何だったんだろう?

あのノラネコの生涯で、死んでからなのだけれども、気にかけ心を痛めた唯一の人間である僕のところに、天に還っていく前に、お人好しのナロを誘って、遊びに来てくれたのだろうか?

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2012年10月 5日 (金)

ネコの不思議話 第一話 グド

ネコの不思議話シリーズを始めます。 天使たちとの、しばしのお別れのお話。

それでは、第一話。 グド

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グド

グドは小柄で、やや長毛なメスのトラネコ。 優秀なハンター。 6回のお産で、30匹の子猫を育てた。

グドの子供達は、みんな躾が良かった。 トイレは深い穴を掘って済ませる。 食卓や台所には上がらない。 ネズミは獲るが、ヒヨコや飼い鳥は襲わない。 里親先で、喜ばれた。

 

グドは、息子のネコだった。 息子のベッドで眠り、食事中の息子の足元に座って、食べ物をねだった。 それから、いつも息子の部屋で子供を産み、育てた。

息子が、”グド、ミャゥルルルル...”、と呼ぶと、グドは、グルニャ~ンルルルル...、と応えた。 これは、グドが子猫たちを呼ぶ時の声だった。 そうやって呼び合いながら、時には校門まで付いていくこともあった。 子猫たちと息子以外に、グドが、グルニャ~ンルルルル...、と鳴くことはなかった。

  

グドは、5才で死んだ。 たぶん、殺鼠剤を食べたネズミか、誰かが捨てたフグの内臓を食べたのだと思う。

僕は、その日は朝から釣りに出かけていた。 もう薄暗くなってから家に着き、グドの死を知った。 グドはもう、埋葬されてしまっていた。

家内が見つけたときには、グドの瞳孔は完全に開いてしまっていて、体はピクリとも動かなかったそうだ。

そのとき、息子は部屋にいた。 どんなに悲しむか。 いっそのこと、空き地に埋めてしまって、行方不明になったことにしようか。 家内は、グドの亡骸を前に、考えていたそうだ。

そこへ、息子がやって来た。 ママァ、グド見なかった? 家内は仕方なく、グドの亡骸を示して、息子の胸に置く。

息子は、どうして...、信じられない...、とつぶやきながら、長いことグドを抱いていたそうだ。 それから、一人でグドを埋葬し、部屋に篭りっきりだと言う。

そこへ娘が来て、不思議なことを言った。 あの時お兄ちゃん、グドが呼んでると言って窓を開け、家じゅうを探して、それから外へ行ったんだよ。

家内は、そんなことないわ、グドはもう完全に死んでたのよ、と言い張った。

  

翌朝、朝食に現れた息子は、いつもどうりの顔をしていた。 僕は息子に、昨日のことを訊いた。

グドが何度も僕を呼んだ、だから探しに行った、と息子は言う。 そして、そんなことないわ、と言う家内を不思議そうに見ながら、もっと凄いことを言い始めた。

グドはあの時、生きてたよ。 僕の腕の中で、ほんのちょっとの間だけど、瞳が猫の目に戻って、僕を見たんだ。 それから、首に巻いた腕に力が入って、僕を抱いてくれたよ。

嘘を言っている顔ではなかった。

  

僕は家族を促すと、庭に出た。

新しい盛り土。 アマパの苗木が植わっている。

僕は両手を合わせると、ありきたりの鎮魂の言葉を言う。 家族達も、僕に従った。

  

グルニャ~ンルルルル...。 突然、グドの声がした。

僕は驚いて、顔を上げた。

グルニャ~ンルルルル...。

だけど、それは息子の声だった。

グルニャ~ンルルルル...、グルニャ~ンルルルル...、

息子の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

グルニャ~ンルルルル...、グルニャ~ンルルルル...

息子は、涙をぽろぽろ流しながら、何度もグドを呼んた。 グドと呼び合う時の間合いだった。

  

...二人っきりにしてやらないと...。

僕は家族に目配せをして、その場を離れた。

グルニャ~ンルルルル...、グルニャ~ンルルルル...、

朝の空に溶けていく声を聞きながら、息子の言うことも、間違いなく本当なんだと思った。  

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