ネコの不思議話

2017年6月24日 (土)

また、夢のネコ

012blogg黄熱病の予防注射を打たれてから、体調を崩してます。 もう、一か月近くになるのに。 生ワクチンを腕に打たれて、すぐに体がだるくなった。 それから酷い眠気。 夕方には、体の節々が痛くなり、頭も痛い。 そして、一週間ほど後に、鼻水が出るようになった。 そして喉が痛くなる。 喉の痛みが収まると、咳が出だした。 酷い喘息様の咳が一日中。 特に夜中。 熱はないが、体は相変わらずだるくて、まるでデング熱の時みたいな感じだ。 どうも、ワクチンの副作用と、免疫力が落ちたところの夏風邪のダブルパンチのようだ。 月曜日から、南米に出張なんだけど。 まあ、旅に出たら、たいていの病気は治る、今まではね。 気合入れて行かなきゃ。

昨夜は、不思議な夢を見た。 また、ネコの夢。

僕は、空に浮かんでいる。 飛行機ぐらいの高度だ。 林立する、巨大な入道雲。 入日が射して、オレンジ色に染まっている。 そんな雲の峰の間を、僕は抜けていく。 ゆっくりだけど、僕は飛行しているようだ。 下は、真っ黒な針葉樹林、それから黄色く染まった広葉樹林がまだらにある。 不安はなかった。

僕は一人ではない。 姿は見えないが、僕の周りには、複数の気配がある。 それがネコたちだと言うことを、僕は知っている。

クロネコが、僕の前に現れた。 いつも夢に出てくる奴。 夢の中では良く知っているクロネコだ。

そろそろ入り口だよ、用意は良いか? クロネコは、僕に優しくウインクして言う。

回廊のような雲の谷間の向こうに、大きな岩山がそびえ、夕日に輝いている。

僕は、この飛行が、死出の旅だど知っていた。 怖くはなかった。 きれいだな、と思った。

ああ、良いよ。

よし。 じゃあな、辞世の句を詠みな。

それを聞いて、もう戻れないんだな、と思った。 ほんの少しの恐怖。 辞世の句が僕の唇から滑り出た。

...格好を つけて行こうと 思ってたけど やっぱり死ぬのは 少し怖いな...

クロネコは、真っ赤な舌と、白い牙を見せて笑って言った。

なんだ、怖いのか。 こんなにしてやってるのに。 それから、お前の辞世、字余りだよ。 ダメだな、これじゃあ。 またにしよう。

クロネコの姿が消えた。 同時に、僕の周りの、ネコたちの気配も消えた。

空の真っ只中で、僕は一人っきりだった。 目の前に、赤い岩山が迫る。 本当の恐怖が僕を襲う。 岩山に行ってはいけない。 空に行ってはいけない。 辺りは真っ暗だった。 ぼくは、胸の苦しさにもがく。 闇の向こうに音が聞こえる。 そっちへ行かなきゃ。 それは、僕の咳の音だった。 目が覚めた。

呼吸を整えながら、夢を思い返した。 たしかに、稚拙な辞世だこと。 でも、もう少しましな辞世を詠んでいたら、僕はどうなっていたんだろうか?   

 

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2017年5月10日 (水)

グドのアマパ

023b_2昨日記事にしたピンクのアマパ、Tabebuia roseaですが、我が家にもあります。 若木ばかり。 みんな、テアカパンに引っ越してきてから植えた子たちですから。

この木は、去年から、花を咲かせています。 グドのアマパって呼んでる木。 息子の愛ネコ、グドが死んだとき、息子が御墓に植えた木です。 今が花盛り。

グドのことは、一度書いていますので、ぜひご覧ください。 http://teacapan.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-b16f.html

グドが死んだのは2009年だから、この木は今年で8年になる。 初花は去年で、7年目。 苗のころから成長が早くて、どんどん伸びたんですが、他の丈が低いアマパが、もう花を咲かせているのに、この木だけは咲かなかった。

去年の春、息子と木を見上げながら、おい、お前のグドの木だけ、花が咲かないぞ。 今年は咲くよ、うんと色が濃い花だよ。 どうして分かるんだ? グドが僕にそう言ったよ。

その時は特に気に留めなかったんだけど、本当に初花が咲いた。 言った通り、珍しい濃いピンクの花だった。

ところが今年は、他のアマパが咲いている4月初めには、花が咲かなかった。 イースター休暇で帰省した息子と木の下で、おい、今年はお前のグドのアマパだけ、咲かなかったぞ。 5月に咲くよ、今年は枝いっぱいに。 本当か? うん、グドが僕にそう言ったよ。

グドがそう言ったって、グドと話せるのか、お前? よく夢に出てくるよ、それからいつでも呼び出せるんだ、寝てる時にね。 息子は、しれっとした顔で言うのね。

そして今、本当に枝いっぱいに濃いピンクの花が咲いている。

う~む...。 確かにこの子は、人間以外の生き物とのコミュニケーションには長けていて、普通じゃないところがあるんですよね。 グドはあの時以来、僕にはいなくなってしまったんだけど、息子にはちゃんといるみたいです。 そういうことも、あるんでしょうね。 息子を見てて、ずっとネコたちと暮らしてて、間違いなく、そういうこともあるんだと思います。

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2016年12月13日 (火)

命って何だろう?

Img_6132bbl子猫のレイチャ、昨夜死にました。 一緒に過ごしたのは一週間だけですが、レイチャのことは、いつまでも忘れない。

 
先週の火曜日のお昼前、僕が庭の落ち葉を掃いていたら、レイチャが僕の足元に来た。 僕は思わず目をそむけた。 レイチャの両後ろ足は潰れて泥だらけ、まるでぼろ雑巾のようだった。
 
前足だけでイモムシみたいに這って、レイチャは僕のところに来た。 僕を見上げて、ミャオと鳴く。 抱き上げると、ゴロゴロ喉を鳴らす。 その振動が掌に伝わって来る。 僕たちは鼻を合わせて、ネコ流の挨拶をする。 
 
レイチャの後ろ足は、両方とも腰のところから完全に砕けていた。 車に轢かれたのだろうか? だけど怪我をしてからかなり日が経っている。 たぶん2週間以上。 血が通わないから、足先から壊死が始まっていた。 でも上半身は清潔だ。 生後3か月ぐらいだろう。 母ネコが舐めてきれいにしていたことは明らかだ。
 
数分前、僕は車の音を聞いていた。 うちの前に止まって、すぐに走り去った。 手に負えなくて、うちに投げ捨てて行ったんだろう。 母ネコから、引き離して。 悪い奴。 でも、この子は助からない。 水路に放り込むより、優しいのかもしれない。
 
ともかく、世話をすることにした。 もうすぐ星になる子。 星はスペイン語でエストレィジャ。 茶色のお星さまだから、レイチャ。
 
レイチャは、腰の骨も折れているようで、排便が出来ない。 もちろん、後肢がボロボロだから穴も掘れない。 尿も染み出すだけだ。 食欲はあり、水もよく飲んだが、お腹がパンパンに張った。 流水で下半身を洗って、テラスの日なたに横たえる。 体が乾くと、レイチャは眠ってしまった。
 
レイチャは日が昇ると、下半身を引きずって這い出し、日なたに横たわってご機嫌だった。 だけど壊死は進み、日々衰弱する。 4日目からは、何も食べなくなり、水も舐めるだけになった。 夜には段ボール箱の寝床に入れて、這い出さないように蓋をした。 夜明け前には、ミャオミャオ鳴いた。 母ネコを呼んでいたのだろう。
 
昨夜、寝床に入れた時には、レイチャはもう頭すら動かせなかった。 でも今まで以上に、ゴロゴロ喉を鳴らして僕を見つめる。 死にゆく動物の目って、どうしてあんなにきれいなんだろう。
 
僕がシャワーを浴びて戻ってきたら、もうレイチャは死んでいた。 体を長々と伸ばして。 まるで、無くなってしまった後ろ足まで伸びをしているようだった。 うっすら開けたままの目に、涙が溜まっていた。 
 
レイチャは、何のために生まれてきたんだろうか?
 
僕はいつも動物たちと暮らしていて、小さな命が消えていくのを、生まれてすぐに消えていく命を、たくさん見てきている。
 
命って、いったい何なんだろうね? 今までに、どれほどの命が生まれ、消えていったことか。 そして、これからも。 まるで、流れの中の泡のようなもの? でもその泡には、それぞれ確かに自我があり。 命って、ほんのかりそめのことで、その向こうには、永劫不変なものがあるのだろうか?

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2016年5月26日 (木)

夢のネコ

Img_3883 僕は、夢をよく見るほうだと思う。 でも目覚めた時には薄れてしまっているし、すぐに記憶の奥に仕舞われてしまって、どうにも取り出せなくなる。 皆そうなのだろうか?
 
時々、どこかで見た景色だ、とか、前にあったことだ、なんてことがある。 確信をもって。 よく考えれば、そんなはずは絶対にないのに。 それは、奥底に仕舞われていた夢の断片が、唐突に現れたのだと思っている。
 
僕は、ここ3夜、続けざまに夢を見ている。 鮮明な夢。 めったにないことだ。 あんまり鮮明なんで、寝床で何度も思い起こした。 それで、はっきりと思い出せる。 いずれもネコと水の夢だ。
 
 
>最初の夢。
 
 僕は夜道を家路を急いでいる。 海のにおいがする水路に沿った暗い道。 先に橋があるのを僕は知っている。 思いがけなく僕の飼いネコが僕の前に現れた。 どうしてこんなところに? 僕はネコを腕に抱きあげる。 大きなネコだ、すぐに腕が疲れた。 橋を渡る前に逃げられたらネコは迷子になってしまう。 僕はネコの前足をしっかりと掴む。 そして橋を渡る。 コンクリートの運河。 暗い水面が揺れている。 橋を渡り終える。 もう大丈夫と思ったとたん、ネコは僕の腕をすり抜けて闇に消えた。 僕はたまらない不安に駆られて夜道を駆けだす。 ネコは目の前で僕を見ている。 いた! 僕は駆け寄ろうとする。 でも近づけない、どうしても。 ここで目が覚めた。 胸の動悸を静めながら夢を思い返しているうちに、あのネコが、近所の人が仕掛けた毒餌で死んだ、野良猫上がりのオリソンタルだったのに気が付いて驚いた。
 
 
>次の夜の夢。
 
 目に前に大きな岩があり、波が砕けている。 とても通れない大きな波だ。 でも僕は向こうに行かなければならなかった。 迂回路の石畳の道を行く。 村に出た。 来たことがある村だ。 トラネコが現れた。 僕の飼い猫だ。 ここは僕の村だったのかな。 安堵と不安の混じった気持ちだ。 やがて僕はネコを膝に乗せて海を見下ろす岩に座っていた。 やっぱり違う、早くここを立ち去らないと。 でもネコは膝の上で寝ている。 起こしてはいけない、起きるまで待たなきゃ。 焦燥に駆られながら僕は動けない。 やがて沖に巨大な波が見えた。 来た! そう思ったとたんにネコは僕の膝を蹴って走り去る。 待ってくれ! ぼくはネコを追おうと立ち上がる。 目が覚めた。 まだ夜半過ぎだった。 朝まで胸の焦燥感は去らなかった。 あのネコが誰だったのか、いくら考えても分からない。 夢の中では確かに僕の飼い猫だったのに。
 
 
>昨夜の夢。
 
 僕は木の板でできた橋の上に座っていた。 隣にクロネコがいる。 漁網を積んだ小さな漁船が橋の下を行き来している。 クロネコはいきなり船に飛び降りた。 僕は慌てて浜に駆け降りる。 船は遠ざかっていく。 やがて僕は真っ暗闇で波に揉まれて浮いている。 そして僕は船の上にいた。 横にクロネコがいる。 月夜の鏡のような海面を船は滑っている。 薄黄のクロネコの目に青い月が映っている。 クロネコは僕を仰ぎ見て、笑って言う、岸に帰らなくていいのか? 僕は急に不安になって立ちあがる。 船が大きく揺れて僕は海に落ちそうにつんのめる。 そこで目が覚めた。 まだ夜明けには間がある時刻だった。 満月が、窓から僕を見下ろしていた。 あのクロネコも、僕がよく知っているネコなのに、誰だかわからない。 僕に縁があったネコたちの複合体だったのかもしれない。
 
 
僕がいつか、冷たい夜の雨に打たれながら、真っ暗な川面を、たった独りで渡るとき、ネコたちがそっと、導いてくれるのだろうか?

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2015年11月20日 (金)

新しい星屑

Img_0358_convert_20151120082657愛ネコ、ミケサマが死んだ。

春からずっと下痢気味で体調が悪かったのだが、日曜日に僕が出張から戻った時には、危篤状態になっていた。 僕が家を出た夜から、ずっと僕のデスクの下に横たわったままだったそうだ。

僕の足音を聞きつけて、ミケサマは顔を上げ、緑色の目を細めて僕を見る。 ほんの5日間留守にしただけなのに、ほとんど骨と皮だけに痩せていた。

翌日も、その翌日も、ミケサマはPCに向かう僕の足元にずっと横たわったいた。 家内の言うには、僕が野良仕事に出ると、居なくなるそうだ。 あんなに弱った体でどこに行くんだろうか。 僕が家に戻ると、ミケサマはもうデスクの下にいる。

そして昨日、僕が暗くなってから戻ると、家内が部屋を掃除していた。 ミケサマがいない。

ミケサマは? 掃除を始めたら、出て行ったわよ。 家内は、トイレに行けなくなったミケサマが部屋を汚すのを嫌がっていた。 家内の気持ちを察して出て行ったか? あるいは、追いだしたのかもしれない。

どっちへ行った? 知らないわ。 家内は素っ気なく答えた。

僕は、裏戸を押してテラスに出た。 月明りに光る床に、ミケサマはいた。 僕を見ると、ここもダメなのか、と立ち上がり、歩み去ろうとする。

違う違う! 君に会いに来たんだ...。 ミケサマは振り向いて僕を見つめる。 やがて、僕の足元に丸くなった。 僕は喉を撫で、体をさすってやる。

ミケサマの体は、もう冷たくなり始めていた。 ミケサマはまっすぐに僕を見ている。 その目に不思議な力が宿り、明るく強く輝いているのを僕は見た。 焦点はぴたりと僕に合っているのだけれど、他の何かを見ているようでもあった。 ミケサマには、これから行く世界が、はっきりと見えているようだった。

僕はずっとこうしていたかったのだけれど、やがてミケサマは僕から視線を外すと、前足の間に頭を落とし、静かに目を閉じた。

さよなら、ミケサマ。 ...ええ、さよなら...。

僕はミケサマの体を横たえると、真っ暗な庭に出た。 西空に黄色い半月。 せわしく瞬きながら昇り来る冬の星座たち。 夜空全体が楽を奏でているようだ。

...あの高く歌うオリオンの、少し夜露で滲んだ剣のあたりに、もうすぐ新しい、青い小さな星屑が生まれる...。

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2013年6月13日 (木)

童話 グルニャンの贈り物

先週から、立て続けに、愛ネコを亡くしました。 一緒にコリマへ行こうぜ、フニャ~ン...、なんて言い合ってたのに。 僕たち家族の不運を、一手に背負って死んでくれたような気がしてます。

回想録は、休ませていただいて、今回は哀悼の気持ちを込めて書いた童話です。

それでは、グルニャンの贈り物。

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グルニャンの贈り物


イルダの可愛い茶トラネコ、グルニャンが死んでしまいました。

朝、学校に行くときには、るるる、と喉を鳴らして見送ってくれたのに。
 
 
お昼に、おうちに戻ると、お母さんに呼ばれました。
 
イルダ、とても悲しい知らせなの。 グルニャンが死んじゃったのよ。
 
 
お母さんは、イルダの肩を抱くと、裏庭に連れて行きました。
 
グルニャンは、いつもお昼寝をしていた、物干し台のタオルの上に、体をまっすぐに伸ばして、横たわっていました。
 
 
イルダは、グルニャンを抱き上げました。
 
グルニャンの体は冷たくて、うっすら開けた目は、ガラス玉のようでした。
 
グルニャン...。
 
涙が頬を伝って、ぽたぽたと、グルニャンの顔に落ちました。
 
 
お母さんがさっき、洗濯物を持って来たら、グルニャンがぶるぶる震えて、苦しんでいたの。 すぐに、動かなくなってしまった。 グルニャン、すっと木戸のほうを見ていたわ。 イルダが来るのを待ってたんだと思うの。
 
お母さんは、イルダの腕から、そっとグルニャンを抱き取ると、ライムの木の下に掘ってあった穴に、横たえました。
 
 
さよなら、グルニャン...。
 
グルニャンの体が、土に隠れた時、グルニャンとは永久にお別れなのが、はっきりと分かりました。
 
グルニャン...、グルニャン...。
 
イルダは、お母さんに抱きついて、わあわあ泣きました。
 
 
イルダは、その日の夕方、一人で浜に行きました。
 
誰にも会いたくありませんでしたから。
 
 
波が寄せる砂浜を、グルニャンのことを考えながら歩きました。
 
潮風が、ぶうぶう耳を鳴らして、吹いていきます。
 
 
イルダは、グルニャンが喉を鳴らすのを聞いたような気がして、顔を上げました。
 
濡れた砂の上に、貝殻があります。
 
今までに見たことのない、大きな巻貝です。
 
 
貝殻は、夕日に透けて、きらきら輝いています。 茶色の縞模様が、グルニャンそっくりです。
 
 
グルニャン...?
 
 
0aaaaaaaacanon510_convert_201306130 また、潮風が、ぶうぶう吹いていきます。
 
お空には、ちぎれ雲が、夕日に染まって駆けています。
 
お空のどこかから、グルニャンが喉を鳴らして、イルダを見ているような気がします。
 
 
この貝殻は、グルニャンからの贈り物なのだわ。
 
 
イルダは貝殻を手にとって、そっと唇を押し当てました。
 
それは、イルダが大好きだった、グルニャンの桃色のお鼻のように、ひんやりと冷たく、少ししょっぱかったのであります。
 
 
...お終い...

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2012年10月 9日 (火)

ネコの不思議話 第五話 チョピン

ネコの不思議話、第五話です。 チョピン

音楽好きの、最弱シャムネコ。

Canontest375_convert_20120925123642 チョピン

チョピンは、我が家で産まれた最初のシャムネコだった。 母ネコは、白灰トラ。 どこで種を貰ったのだろう? 兄弟は、クロネコ、トラネコ、灰トラ、長毛トラと見事にバラバラだった。

ある日、僕がショパン(CHOPIN、メキシコでは、そのままチョピンと発音する)をかけたら、まだ子猫で名前もなかったチョピンがやってきて、スピーカーの前に座った。 青い目をぱちぱちさせて、熱心に聴いているようだった。 それで、偉大な音楽家の名前で呼ばれるようになった。

  

チョピンは、大きなオスネコだった。 だけど動作が鈍重で、昼も夜も、たいていは上の娘の部屋の窓で寝ていた。 そして、たまに外にでれば、たちまちうちを縄張りにするノラネコに見つかって喧嘩になり、必ず負けた。 屋根の上で取っ組み合いになり、絡み合って転げ落ちて来たときも、チョピンが必ず下だった。

チョピンはお人よしで、いつも人のされるがままにしていた。 仰向けに転がされても、服を着せられたり、帽子をかぶせられても、意に介さず穏やかに目をつぶっていた。 愛すべき、いじられ役のキャラだった。

  

チョピンは、4歳の秋に、突然行方不明になった。 シャムネコは、僕の住む地方では稀だ。 近隣の村も含めて、チョピンは唯一のシャムネコだった。 それで、シャムネコは高く売れる。 だから、たぶん盗まれたのだと思う。 種ネコにしようと思ったのかもしれない。 気のいいチョピンだから、捕らえるのは容易だったはずだ。

僕たちは村中を探し、聞いて歩き、隣の村に人達にも探してもらったが、チョピンは見つからなかった。

  

一ヶ月あまりが過ぎ、チョピンのことも、もう過去の話になった頃だった。 僕たちは、原野の湿地帯を歩いていた。

”チョピン!”

突然、2歳半になる末娘が叫んだ。

僕たちは驚いて、娘の視線を追った。

だけどそこには、鳥が一羽いただけだった。

0aaaaaacanonaa アメリカトキコウ。

コウノトリの仲間で、僕の胸ぐらいもある、大きな鳥。

黒いハゲ頭と薄墨色の首。 白い翼と体。 チョピンに、色合いが似てないこともない。

な~んだ。 僕たちは顔を見合わせて笑った。

だけど、すぐに笑いを消した。 その鳥の何かが、いや全てが、チョピンそのものだった。

その鳥は、ほんの10mほどのところに立って、小さな黒い目でこちらを見ていた。

”チョピン!” 

末娘は駆け出そうとした。 娘には、チョピンの姿がはっきり見えているようだった。 だけど前は、水草の浮く沼だった。

末娘はじっと鳥を見ていたが、僕たちを振り返って言った。

”チョピン、行っちゃうって...。”

  

”さよなら、チョピン...”

末娘は小さな掌を、ひらひら振った。 それに驚いたように、鳥は大きく羽ばたいて飛び立つと、僕らの上を通って、湿地帯の奥へ飛んでいった。 遠くにアメリカトキコウの群れが休んでいるのが見えた。

  

僕らは、今のは何だったんだろうかと話し合った。 チョピンの身に不幸が起こって、さよならを言いに来たのか? 末娘は、”チョピン、行かなきゃいけなかったの”、と言うばかり。

僕たちの結論は、こうだ。 チョピンはどこかの金持ちの邸宅で、メスネコ達に囲まれて元気にしてる。 もう戻れないし、こっちのほうが良いから、それで今までのお礼とサヨナラを言いに来たんだと。 だからあの鳥は、仲間の所へ飛んで行ったんだと。 

チョピンの奴、負けっぱなしで、恋人もできなかったからね。 上の娘が、泣き笑いの顔で言った。

それからあの日以来、チョピンの化身、アメリカトキコウは、我が家ではチョピンと呼ばれるようになった。 僕はいつでも、原野でアメリカトキコウを見ると、気になって仕方がない。 あんなにはっきりと、チョピンの面影を見ることはないけれど。

これで、ネコの不思議話シリーズを、いったんお終いにします。 また忘れた頃に、新しいお話を載せられればと思っています。 ご愛読、有難うございました。

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2012年10月 8日 (月)

ネコの不思議話 第四話 オリ

ネコの不思議話、第四話。 オリ

闘病の末、一人で旅立った子。

0bcanon2065_convert_20120925125304 オリは斑トラの、小柄なオスネコだった。 特別に柔らかい、ウサギのような毛並みをしていた。

快活な子で、大人になってからも、よく他のネコ達とじゃれあっていた。 時には、うちを縄張りにするオスのノラネコと、仲良くくっついて寝てたりもした。

小さいときから、木登りが好きだった。 イグアナを追いかけて、幹を駆け上る。 イグアナが反転して下に行ってしまうと、オリは木の上に取り残される。 下りて来い~、なんて呼んでるうちに、オリと言う名前になった。

ネコの体は、幹に登れても、降りられないように出来ているようだ。 梯子が届かない枝で、長いことミャウミャウ鳴いた後、転げ落ちてきたこともあった。

  

そんなやんちゃなオリに、不幸な事故が起こった。

ロバの鞍で寝ていたオリが、物音に驚いて飛び降りた時、後ろ足を鐙のロープに引っ掛けて宙吊りになった。 苦しげに鳴くのをなだめてやっと外してやると、オリはベッドの下に駆け込んで、半日出て来なかった。

そして翌日から、後肢の麻痺が始まった。 麻痺は進み、僕の膝に飛び上がれなくなり、下半身を引きずって歩くようになった。 獣医に見せたが、もうこれは、どうしようもないようだった。

やがて麻痺は全身に広がり、10日ばかりすると、オリは寝たきりになった。 それでも、オリは快活だった。 便と小水で汚れるので、2日に一度ぬるま湯で洗う。 あんなに嫌いだったお風呂なのに、オリは僕をじっと見つめていた。 そしてタオルでごしごし拭いてやると、顔を僕の手に擦り付けて甘えた。

安楽死、という単語が、いつも僕の脳裏にあった。 だけど、いつもご機嫌なオリを見ると、とても出来なかった。 奇跡が起こるとは思えなかったが、このままでずっと生るかもとも思った。

0bcanon2369_convert_201201261330443週間ばかりの闘病の後、最期の日が来た。 その朝、オリの緑色の目は、いつもより大きくなり、明るく深く澄んでいた。 もう顔も動かないようだった。

僕は、オリに目で挨拶をする。 オリも、僕をまっすぐに見つめた。

”やあ、オリ。 どうだい、もうダメかい?”

”ええ、もうダメなようです。”

”食べ物を待ってきたけど、食べられる?”

”ええ、ありがとう、いただきます。”

顔の前に肉の細切れを持っていくと、オリはピンクの舌で受け取って、ゆっくりと噛んだ。 それから、僕の掌から水を舐めた。

”少し、傍にいようか?”

”いいえ。 これからは、一人で行きますから。”

オリは、一人になりたいと、強い意志で伝えてきた。

”わかった。 じゃあ、さよならだね、オリ。 どうも、ありがとう。”

”ええ。 さよなら。”

僕は立ち上がり、それからオリを見下ろした。 オリは、もうその時には、僕を見てはいなかった。 その瞳に、朝の空と木立が映って、きらきら揺れていた。

 

僕は歩み去りながら、不思議なことに気がついた。 僕たちは、なんとも鮮明に意思を通じ合わせていた。 人との、言葉を介した、どんな対話よりも鮮明な。

オリとは、なんとなく通じてるな、という刹那が度々あったのだが、こんなことは初めてだった。

 

オリのことは気になったが、望み通りに一人にしておいた。 そして、お昼前に行ってみると、もうオリは死んでいた。 別れてから、寸分も動いた様子はなかった。

僕はふと思って、ついさっきしたように、オリを心で呼んでみた。

”オリ、いるかい?”

何の返信もなかった。

”オリ...、オリ...、どこだい?”

空からも、雲からも、風に揺れる木立からも、なんの返信もなかった。

僕はオリのなきがらを抱き上げた。 空気のように軽かった。 オリは、行ってしまっていた。

オリはきっと、木に登るときにしたように、目をらんらんと輝かせ、ばりばりと爪を立て、たった一人で、意気揚々と天に駆け上っていったんだと思う。  

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2012年10月 7日 (日)

ネコの不思議話 第3話 ベロのお話

ネコの不思議話、第三話。 ベロのお話。

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ベロのお話

ベロは、金色の目の、メスのクロネコだった。

メキシコでも、クロネコは嫌われる。 乳離れすると、兄弟たちは里親に出されていったが、5人兄弟の唯一のクロネコだったベロだけは貰い手が無かった。

それで、隣家のベロニカという少女を説得して、やっと行き先が決まった。 それまで名前が無かったのだが、ベロニカのネコと呼んでいるうちに、ベロという名前になった。

ベロニカはベロを可愛がってくれたが、兄がクロネコのベロを嫌った。 足蹴にして家から追い出し、石を投げることもあった。 ベロは、兄が学校から帰ってくる時刻になると、塀を飛び越えて我が家に来た。

  

その頃、僕たちはテアカパンに来たばかりで、2寝室の家に仮住まいをしていた。 やがて、村の入り口の廃屋を買い取り、修理して引っ越した。

僕は、置き去りにしたようで、ベロが気がかりだった。 ベロは、空き家になったあの家に、来ているのだろうか。

  

行ってみると、ベロはいた。 荒れ果てた前庭に、行儀良く座って僕を待っていた。 僕は通りかかるたびにベロを呼ぶようになった。

  

一ヶ月ばかりの後、新しい入居者が決まった。 若い夫婦で、2頭の大きなラブラドール犬を飼っていて、大のネコ嫌いだと言う。 ベロは行き場所を失うだろう。 最悪の事態も考えられた。

僕は、ベロを我が家に連れてきた。 だけども、その頃我が家には、10匹を越えるネコがいた。 一度は里親に出したネコだ、再度貰い手を捜すことになった。

ベロを連れての里親探しの末、村はずれの、二人暮しの牛飼いの老夫婦が、行儀が良く人懐っこいベロを気に入ってくれた。

ベロは安住の場所を得た。 毛並みは艶々と輝き、いつも穏やかな顔をしていた。 

ベロは、僕を憶えてくれていた。 僕が通りかかると、戸口に座って僕を見つめ、喉をなでると気持ちよさそうに目を閉じた。

  

3年後、老夫婦の所に、実家でお産をするために、臨月の娘が里帰りしてきた。 娘は、クロネコのベロを不吉がった。 それでも、辛くするようなことは無かったそうだ。 できるだけ、娘に近づけないようにしただけだと。 その一週間後、ベロはいなくなった。

それを聞いたとき、僕の胸は酷く痛んだ。 ベロは、自分が嫌われていることを悟って出て行ったのか? それとも、娘に老夫婦の愛情を奪われて、嫉妬したのか? だったら、うちに来てくれれば良いのに。 だけど、2回も里親に出しておいて、それは身勝手な願いだった。

ベロはどこに行ったのだろう? 食べ物には困らない漁村だ。 人間とはもうたくさんと、どこかで気楽なノラネコ稼業をしているのだろうか?

それからこれは、老夫婦から聞いた話。 ベロは4回のお産で、20匹近くの子猫を産んだが、不思議なことに、完全なクロネコは一匹もいなかったそうだ。 こげ茶色とか、黒地に濃い縞のは、いたそうだけど。

ベロは、自分がクロネコなのを、知っていたのだろう。 クロネコに産まれたことを、どう思っていたのだろうか? 

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2012年10月 6日 (土)

ネコの不思議話 第二話 名もないノラネコの死

ネコの不思議話、第二話、行きます。 名も無いノラネコの死。

井戸を見るたびに、それからピンクのニチニチソウを見るたびに、思い出す。

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名も無いノラネコの死

ネコが井戸で死んでるわ。 家内の呼ぶ声で、目が覚めた。 僕は大慌てで、庭に飛び出した。

井戸を覗き込むと、暗い水の底に、白い物が沈んでいる。 確かにネコのようだ。 僕は梯子を井戸に突っ込み、底に降りて行った。

うちのほうでは、地下水位が高く、井戸の深さは4mぐらいしかない。 それに春の渇水期なので、水深は1m以下だ。 冷たい水に腰まで浸かって手を伸ばし、尻尾を掴んで引き上げた。

時々見かける、大きな斑トラのノラネコだった。 苦悶の表情はなかったが、薄く開いた目が、無念そうだった。

実は僕は、夜半に物音を聞いていた。 大きな水音。

そうか、あの時に...。

真夜中に、真っ暗な井戸の底で、冷たい水の中で、たった一人で死んでいった名もないノラネコ。 可哀そうに...。

僕は、飼いネコたちの墓の隣に埋葬し、いつもそうするように、初花をつけたニチニチソウの苗を掘り取って植えた。 本当は樹木の苗木を植えるのだが、手ごろなのが無かったから。

  

その夜、僕は夢を見た。

夢の中で、僕とノラネコはじゃれあっていた。 追いかけっこをし、取っ組み合いをし、僕を組み伏せると、顔を舐めはじめた。

うわぁ、くすぐったい。 舌のざらざらが、頬に痛い。

お前、死んでるのに、凄い勢いだな、なんて思いながら目が覚めた。

なんと、僕の頬を舐めていたのは、うちのボケネコ、ナロだった。 ナロは、僕が目を覚ましたのを見ると、舐めるのを止めて枕元に丸くなった。 ナロが僕にこんなことをしたのは、後にも先にも、この時だけだった。

 

あれはいったい、何だったんだろう?

あのノラネコの生涯で、死んでからなのだけれども、気にかけ心を痛めた唯一の人間である僕のところに、天に還っていく前に、お人好しのナロを誘って、遊びに来てくれたのだろうか?

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